第三話「恋愛の時空」
筆の進みが遅くて困りますね。
皆さん書き溜めてどんどん更新されると聞きました。
驚異的ですね。
第三話もご愛顧よろしくお願いします。
第三話「恋愛の時空」
「咲先輩!明日はいよいよライブ鑑賞&お泊り会ですよ!!」
「千井野さんと呼びなさい。そしてお泊まり会ってなに?そんなこと言ってたかしら」
「だって、ライブ鑑賞しながらお酒くらい飲みますよね?だったらそのままうちに泊っちゃった方が、さきせ…千井野さんも楽か~なと」
上目遣いで瞳をキラキラさせて期待を表現する新井さん。
「泊まりません。と言いたいところだけど、新井さんのお家って確か…」
「神奈川の菊名です!遠いですよ!お酒飲んだら電車乗るのだるいですよ!!」
これでもかっとぐいぐい体を寄せてアピールする。
「…。はぁ。じゃあお言葉に甘えて一泊させてもらおうかな」
「え!!?ほんとですか!! やったー咲先輩が泊ってくれる!!これは、もう…ぐへへへ」
まだ見ぬ夜に意識をトリップさせている新井さんを無視しつつ、華麗にスマホをタフタフと操作する。何度見たかわからない碧さん個人のアカウント。ストーリーズが更新されているのを確認するたびに胸が高鳴り、体中に電気が走るような錯覚さえ覚える。
【今日もブルームブルーに出勤します。この投稿はアナタのためだけにあります。】
碧さんのアイコンが親しい友人にのみ公開していることを示す緑色のラインに縁取られている。簡素でありながら、あまりにドロドロした感情を内包した文章に心臓が跳ねる。
思い上がりでなければこのアナタとは私のことである。以前碧さんは「この親しい友人というリストに咲さんを入れました。何故なら私にとって親しいと呼べる人は咲さんだけでいいからです」にゃははと照れ臭そうに笑いながら重い言葉をくれた。
猫のように機嫌がコロコロ変わり、つい触れたくなるが、こちらから触れるとふいにどこかへ消えてしまうようなそんな危うさが碧さんにはあったのだ。
「いらっしゃいませ!咲さんのいいねを眺めること5時間です。苦行のような長き時間…泣き」両手を目の下に持っていき泣き真似を披露する碧さん。
「仕事がなかなか終わらなくて…。でも泣くのは大げさでしょ。まぁ金曜日にここに来るのは私も心待ちにしている瞬間ではあるんだけどね」
「咲さまは、この憐れな碧めに会いに来てくださってるのでございますのでしょう??」
「なんでそんなめちゃくちゃな遜り方するのよ!」
「うちはか弱き生きもんなんよ。咲さんに庇護されないと生きていけへんのんよ」
ヨヨヨとまた、泣き真似をしてこちらの様子をちらと伺う様は、まさに国宝級という言葉がふさわしい。数いる人間国宝のなかでも最もキュートであることは請け合いである。もちろん人間国宝に限らず、碧さんはこの世界のどの生き物よりも愛くるしいのではあるが!
「私も碧さんを庇護できるなら、そんなうれしいことないよ」
何気なくいつものように言葉尻をつかんで返すと
「じゃあ、結婚しようよ!!」
と突然大声を上げて二人の間にカウンターなどないかのように距離を詰める碧さん。
「ええ??!」
「だってうちは咲さんに庇護されたい!咲さんはうちを庇護したい!こんなんもう結婚しやんと!」
傍から見ると告白のようだが、これは碧さんの常とう手段である。
「…。また、私をからかってるんでしょ?碧さんってすぐ私の反応で遊ぶよね」
「えー⁉結婚はホンマにしたいけどなぁ。ま、でも咲さんの反応が可愛くておもろいのは確か。オモロ」
10歳も年下の女の子から可愛いと言われただけで、しびれあがる私の干からびた脳細胞が恨めしい。ああ、こんなかわいい子が本気で告白などしてくれるはずもないのに。でも、この甘やかなしびれは電気信号となって全身を支配している。
私は逃れようがないほど完全に碧さんのことを好きになってしまっているのだ。
「はいはい、あまり歳上をからかわないの。あんまり動揺すると心臓が取れちゃうからね」
「えーー!咲さんの心臓めっちゃ欲しい。部屋に飾りたい!」
「サイコパス過ぎる発想やめてよ」
「うちは咲さん専用サイコパスやからね」
碧さんからの好意を感じつつも、そのことに気づかないふりをして他愛のない会話とお酒を楽しむ時間は愉悦でグロテスクで、そして切ない。
「そういえば咲さんとお店以外で会ったことないですよね」
ふいに碧さんがそんなことを言い出した。
「そ、そうね。でも碧さんいつも金土日はシフトに入ってるでしょ?私はほら土日がお休みだから、ここに飲みに来ちゃうし」
「ところがどっこい。じつは明日はお店のメンテナンスで店休日なんですよ」
壁に飾られたカレンダーには(店休日です!テンキューなんちゃって♥)と私より歳上の女性店長が元ギャルだった経験を活かした丸文字で、お休みを伝えるつまらないダジャレが平成前期感マシマシのハート付きで記載されていた。
「だから咲さんデートしましょ。デート」
完全に虚を突かれた提案に「ほえ?」と往年の萌えアニメキャラクターのような吐息が漏れ出た。
「だから、デートですよデート!咲さんの脳内に広がる景色をうちに共有してください」
「で、でも、そんなご両親へのあいさつもま、まだなのに…!?」
「咲さん頭パニックなってるの可愛い!うちオカンが浮気して出て行ったので、オトンしかいませんよ。あいさつするならオトンだけで大丈夫です!」
さらっと重力にひかれるカミングアウトをする碧さん。
「ええ、ええ、わかった。私も32歳の大人の女性。こんなことでうろたえたりはしないわ」
「咲さん、言葉とは裏腹にって言葉が似合いすぎてますよ!」
「いいよ。碧さんデートしましょう。そうと決まればお代わりのハイボールは濃い目でお願い」
「合点!ああ、咲さんとのデート楽しみやなぁ。どんな服着て行こうかな」
そうか!休日に会うということはいつもはバーテンダーの制服を着用している碧さんの私服が見られるということ…か!?
幸せは人生の最後でしか確認出来ないって言ったけど前言撤回。幸せは今私の目の前に顕現しようとしています!
ああ、この愛くるしい生命体の別衣装まで用意してくれるなんて神様はなんてシゴ出来なんでしょう。どこの国のなんの神様か存じませんがとりあえず、感謝します!!
「ど、どこに行こうかな?お店も調べないとだし…!」
焦りながらスマホを取り出すと新井さんからメッセージが来ていた。
【明日会えるの楽しみにしています!美味しいごはん用意して待っているので、いつでも好きな時間に来てくださいね♡ちなみに明日は会社じゃないので咲先輩って呼んでもいいですよね?】
マズイな。明日は新井さんと約束をしていたのをすっかり忘れてた。どうしたものかムムムっと思考していると
「…。それだれですか?」
いつもまにか私の背後に立ってスマホをのぞき込んでいた碧さんが、暗いところで目を凝らす猫のように睨め付けてきた。
「もう一回聞きますね?咲さんそれは誰ですか?」
「えっと、あの会社の後輩で…」
「ふーん、たまに言ってたおっちょこちょいな後輩さんですね。まぁもちろん、明日はうちと会うんですよね??」
「ええ!もちろん!新井さんには悪いけど、断っちゃうね」
スマホを操作し、新井さんに謝罪の言葉を送ろうとしたとき、碧さんが私の手首をつかんで中断させた。
「まぁ。後輩さんも楽しみにしてるんですし。いいじゃないですか」
「でも、碧さんとのデートが」
「だから、デートしましょうよ。せっかくごはんまで準備してくれてるみたいですし、その後輩さんの家で」
瞳をキュッと細くして私の反応を待つ碧さん。
「で、でも、あの」
逡巡する私の手をそっとつかんで碧さんはこう言った。
「楽しいデートになりそうですね。咲先輩?」
恋をした天使に触れているのに、今の私はヘビににらまれたカエルに様にぴたりと動きを止めている。
この人からもう逃げることは出来ないとういう予感すら、恋愛の時空においては芳醇な薫りを放つスパイスにしかなり得ないのだ。
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読者の皆様に最大級の感謝を込めて。




