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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
マリー:ツミトル/白夜
68/132

蕾を折る

**


期待していた食料や医療品が手に入らず、進行はほとんど絶望的になった。


トラックの燃料も無くなった今、僕たちは立ち往生になった。


『…どうする?』


『そりゃあ…まぁ…』


静かなトラックの中、ヒマワリが言葉を発するのをみんな待っていた。


ここまで来たのも、みんなヒマワリに付いてきただけだ。

みんな、今やりたい事がある訳でもない。終末世界の最期の思い出。そう思ってここまで来た。


『…ヒマワリ?』


ヒマワリは、真剣な顔で何か考え事をしている。


マリーの腹部の怪我は、医療品が無いと万全には動けない。


『…そうだね。やっぱり引き返そう』


『ダメ…』


ヒマワリの提案を、マリーが拒否する。引き返すことに何かある訳では無い。

このままトラックを置いて、みんなで歩いて戻ればいい。


引き返せば今よりは安全だ。でも、ここまで来た意味は何だったんだろう。そう思ってしまう。


『ダメ…ヒマワリちゃんの…夢だから…』


『ううん。あたしの夢は、みんなと一緒に行くことだから』


『…戻るのは反対だな』


ここまで黙っていたツユクサが口を開く。


『戻ってどうするんだ?1番近くの人の場所まで何kmあると思ってるんだ』


その言葉にジニアが反応する。


『おい、ならマリーを捨てて行くって言うのか』


『違うわ堅物。ここで医療品を探すんだよ』


『ここまで探してなかっただろ』


『戻ったって無いだろ』


何処かで音がする。トラックの外が、初めて怖いと感じた。普段無口なアジサイが、口をパクパクして仲裁しようとする。


『東の街は、俺らが思ってるよりずっと過酷だった。ここまで来れたのも奇跡だ』


『そうだな堅物。だからこそ、2度目の保証は無い』


『…どうするんだ?ヒマワリ』


ここまで、ずっとヒマワリの言葉で来た。そのヒマワリが、言葉を選んでいる。

胞子が覆い尽くしたこの街で、僕らは立ち往生になった。


『…進もうよ。みんな』


『ガキは黙ってろ。…で、どうするんだ?ヒマワリ』


『ガキじゃない…』


マリーが呟く。彼女の気持ちはよく分かる。だがマリーを背負って奥に行くのはあまりにもリスクだ。


腹部の傷は、放置すれば化膿する。体を動かすことは、そのまま進めば間違いなく死ぬ。


歩いて戻るか。ここで医療品を探すか。それとも。


『…行くのは、みんなでだよ。ここは変わらない。マリーの医療品、探しに行こう』


**




影で蹲るマリーの所に、フジと共に行く。

マリーの肩の震えに手を添える。顔を上げたマリーの涙を、フジが舐める。


「……ベェも、本当は怒ってるんでしょ…」


「……」


「私がわがまま言わなきゃ、ヒマワリちゃんは居なくなったりしなかったのに…」


「誰のせいと言えば、みんなのせいだ」


横に座る。


「私のせいだよ…だから…私が代わりにならなきゃ…」


真っ向から否定はできない。みんなが亡くした道標の代わりを演じている。

あの時ヒマワリに貰った、最後の青春。

その代わりになる何かに出会えると、そう信じていないとやって行けない。


「結局、ツユクサ君に言われた通りだった…私は子供で、ドジで……」


普通の人なら、「そんな事ない」って言うんだろうか。


あの時の僕らは、大人の癖にガキだった。それが許されてると、そう思ってたんだ。

その責任をヒマワリに押付けて、楽しいことだけを見ていたかった。


怖いものなんてなかった。失うものなんて何も無かったはずだった。

その結果僕らは、最後に1番大切なものを失った。


回収員は、僕にとっての贖罪だ。

もしもまた彼女に会えたら、その時僕は。なんて言えば良いんだろう。


その答えを、今もこの旧市街で探してる。拾ったものの中に、それはまだ見つからない。


「本当はみんな、私の事なんて嫌いなんじゃないかって…」


「マリーは、みんなを騙すためにその"彼女"を演じているのかい?」


フジの問いかけに、マリーは俯く。


「…違う…私は…みんなに嫌われたくないから…」


「ならば、皆も同じだろう。人間は嘘をつく生き物だ。それは変わらない」


フジの言葉は、何か思いもよらぬ方向から殴られるような感覚を覚える。それが少しだけ心地よい。


「彼らに悪意の匂いは感じなかった。人間は、嘘が分からないから嘘をつく。だけど、ニンゲンは嘘を、どう使いどう受け止めるかを決めることが出来る」


「どう…受け止めるか…」


「フジは、嘘の匂いが分かるのか?」


「我は、嘘がバレるから嘘はつかないんだ。ベゴニアも、随分と隠し事が多いようだ」


「…そうだな」


「え?…」


「本当は、マリーに怒ってる」


半分冗談のつもりだったが、既に泣きそうなマリーがお労しくなる。


「…ずっと、自分を卑下しすぎだ。これまでのことは、全部古参全員のせいだ。リーダーは罰なんかじゃない」


「おや、また嘘の匂いだ」


何食わぬ顔でサラッと言わないで欲しい。


「…僕も、回収員は贖罪のつもりだ。でも、同じくらい今を大事にしたいと、思ってはいる」


「うん…」


「行こうかリーダー。これが罰なら、僕らが一緒だ」


「…うん」


マリーの手を取り、彼女が立ち上がるのを支える。


折れた蕾はもう戻らない。もう花が咲かないとしても、それでも生きるのだ。

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