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ケラ喰いと僕らの生存競争〜終末都市の塵芥(ちりあくた)  作者: Anzsake
ベゴニア:ヘンカン/ちっぽけな僕ら
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線路拡張計画

回収員の集会所となっている元駐車場で、早くも次の遠征計画書が配られる。出発は今日。前回と同じ東の旧市街で、ジニア含む置いてきた人間の確認と、塞がれている線路の復旧作業が主目的だ。


他の旧市街に遠征していた班も戻ってきているが、車両損害の都合で今回も20人編成。参加申請を出す前に、マリーに呼び止められる。


「ベェくんはタネと参加してくれ。タネは人員に数えていない」

「分かった」

「ベェ、お腹空いた」


仕方のないことだが、この場でタネを満足に食わせるのは無理だ。早く連れていった方がいい。


「今回はあくまで線路の復旧が目的だ。新人を2人入れる。守ってやってくれ」


「分かった」


そのまま駅に向かう。出発は昼だが、行く場所もないので準備を済ませる。服はこれしかない。ベルトにボンベと空気銃、メンテナンスを終えた片手斧を腰に下げる。


電車は外傷こそ目立つが、虫の液は綺麗に掃除されていた。復旧用資材を搬入する作業員に声をかける。


「おはようございます。手伝います」


「いつも助かるよ」


作業員二人で持つ資材を、タネが一人で持ち上げる。歓声が上がるが、下ろすときに落として車両が揺れる。作業員に下ろし方を教わると、慎重に載せ直した。


「これが噂の新人類か」


「新人類?」


「そうだと言われたら、そう見えなくもないだろ」


確かに、言われればそうだ。役割交代かもしれないな。


他の回収員も集まり、荷物運びを手伝う。そのとき名を呼ばれる。


「あの、ベゴニアさんですか?」


振り向くと、若い男女が立っていた。顔立ちが似ているので血縁だろう。


「今日からこの仕事に就きました。カリンです」

「リズです」


男の方がカリン、女の方がリズだという。軽く会釈する。


「よろしく」


まだ着慣れていないジャケットが初々しい。二人は電車の方に走り、荷物運びを手伝い始める。


「ベェさん、新人ですか?」


いつの間にかシライシが立っていた。


「シィ」


「タネちゃん、おはよう」


「今日は早いな」


「呼び出されました。タネ発見組に俺も含まれているらしくて」


眠そうな顔で笑う。家族に会えるのが嬉しいのか、行きの電車ではいつも爆睡している。


電車が発車する。シライシは隣で寝ており、タネは外を見ながら足を揺らす。向かいにカリンとリズが座る。


「二人は最近コミュニティに来たのか?」


「はい。北の方に居たのですが、老人が多く解体されることになって…」


カリンが答え、リズは相槌を打つ。


「その老人は」


「老いぼれは老いぼれ同士で暮らすからと。若者たちはそれぞれ分かれて行きました」


「まとまって動かなかったのか」


「統率力もなく、全員で共倒れになるよりは少しでも生き延びる方がいいという判断でした」


リズが遠くを見つめる。この国の山々の向こうに、自分たちの故郷はもう見えないだろう。それでも、まだあると信じたいのだ。この歳で、パンデミックを経験し、遠いここまで歩いてきたということだ。


「そうか。すごいな」


「そんな…こんなに大きなコミュニティを見たのは初めてで、虫は見たことがなくて少し怖いです」


旧市街にしか生息しないため、見たことがないのも当然だ。


「危険が無いとは言わないが、それは何でも同じだ。死なない程度に経験を積め」


「はい。頑張ります」


外縁の建物が見えてきた。


停車後もまだ昼過ぎなので外には出ない。置いてきた食料がそのまま落ちている。


「ベェ、お腹空いた」


「もう少し待て」


線路は先で途切れ、大岩が散乱している。重機は無く、ボンベを使った爆破で破砕する計画だ。


シライシを起こし、カリンとリズにボンベの扱いを教え、ベルトに固定させる。今回は二人には作業専従で武器は持たせない。


ジャケットを羽織り、ガスマスクを付けて外に出る。


僕とタネは虫の迎撃、シライシたちが爆破・破砕後の瓦礫撤去を進める。先行調査では2km先に貨物列車があるとのことだ。何とか回収したい。


夜は虫が湧きにくい。タネはじっと都心の方向を見ている。線路で子供たちに作業を教えるシライシは、やはり子供慣れしている。


爆破音に反応して虫が六体寄ってくる。一部欠損した個体がいる。ジニアの仕業だろうか。片手斧を抜く。性能テストには丁度いい。


一体にタネが飛びかかると、虫は後退する。警戒しているのかもしれない。


残った一匹を斧で首を落とし、足を振り回すもう一体の頭も落とす。その頃には残りの虫は逃げた。死骸をタネが食べる。美味しそうに食べるが、恐らく顔はいつもと同じだ。


作業中の回収員たちがこちらを見ている。シライシと目が合うと、笑いながら手を振ってきた。


タネが威嚇音を出す。暗闇の中に黄色い眼光が光る。月光の下に現れたそいつはタネと同じ種だ。背中から四本の腕、タネより長い尻尾。明らかな上位個体。口元の赤い液体が人肉でないことを祈る。


片手斧を構える。

「旧市街」(きゅうしがい)

虫の生息域内、都心へ向かう区域の呼称。虫の生息域外周(外縁0km)より内側を指し、都心まで約50kmにわたって広がる。


虫の密度と活動頻度は距離に比例して増加するため、回収員の基本活動範囲は外縁から10km以内に限定されている。10km以遠は回収利益より損害が上回る確率が高いため、調査・回収は限定的。


都心域には旧インフラ(電力・物流・水源・冷凍・農業設備)および物資在庫が多数残されていると推測されている。

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