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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
サルビア:ケイフ/それでも前へ
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ベゴニア:白の虚城

遠くで地響きが聞こえる。ホコリが床に落ちてくる。


声を出すものは誰も居ない。


体育館とはこんなに狭かっただろうか。

こいつの糸のせいか、それとも僕がでかくなったのか。

いや後者は無いな。


蜘蛛はあれから天井の糸の巣から顔を出さない。こちらがただ食われる存在じゃないと認知したのだろうか。


であれば、どう引きずり出してみようか。




糸が張り巡らされる天井の真ん中、アンカーを打ち込めそうな部分が見える。


そこに目掛けてアンカーを飛ばす。


天井に向かって一直線に伸びるワイヤーは、まるでお話に出てくる蜘蛛の糸だ。


斧のエアカートリッジを新しいのに交換する。

床に落ちた空のカートリッジが、乾いた音を立てる。

それに反応するように、蜘蛛が再び天井から顔を出した。



臀部から糸を伸ばした蜘蛛は、振り子のように弧を描いて、こちらに向かって落ちてくる。


地面を蹴り横に飛び退く。ワイヤーに引っ張られて身体が宙に浮くと同時に蜘蛛の突進を躱す。


斧を後ろに向けてレバーを引く。空気圧縮によるブーストは宙に浮いた僕には推進剤だ。

振り子の身体は勢いよく後ろに戻り、蜘蛛の後ろ足に傷を付ける。


浅いが、確かな手応えがあった。何か鳴き声を発しながら蜘蛛が天井に逃げる。


「ベェさんは変なこと思い付きますね」


「僕のことは気にせず、撃てそうなタイミングで散弾撃っていいから」


天井の白い虚城を見つめる。お前の戦い方、真似させてもらうぞ。




転がったカートリッジを蹴って音を鳴らす。

しかし蜘蛛は降りてこない。


2度は通じないか。やはり賢い。


ならば、こちらから攻める。


大きく蹴って宙に浮く。空中でエアブースト。

さらに高く、さらに遠く。少しずつ慣性を付けながら、振り子の揺れを大きくしていく。


壁に足がつくたび蹴り返して、その合間にワイヤーを巻き上げる。


揺れが増した頃、蜘蛛が天井から顔を出した。

飛びかかってくる。すかさずエアブースト。振りの勢いで弧を描いて回避する。


静止して上がっていたら、水面に垂れた釣り餌みたいなものだ。

だから、こうして動き続けながら、少しずつ壁を蹴って登る。


さらに数度、蹴って、揺れて。

やっと手が、蜘蛛の巣の端に届いた。


手を添えた瞬間、蜘蛛が鳴き声をあげて襲いかかってくる。

その直前、アンカーを外した。

ワイヤーが緩み、身体が重力に引かれて一気に落下する。


その隙を見逃さず、シライシの銃声。

通常弾が蜘蛛の体に突き刺さり、悲鳴とともにそれが落ちてくる。


僕が着地したすぐ背後。

蜘蛛の巨体が落下した衝撃で、床がびりびりと震えた。


すぐ様斧を後ろに振りかざすが、蜘蛛は身体を起こして斧を避ける。


ワイヤーを振り抜く。唸りを上げて円を描く金属の軌道が、逃げる蜘蛛の脚を捉えた。

鈍い音と共にアンカーが蜘蛛の硬い脚に突き刺さる。


糸の巣の中に逃げる蜘蛛に合わせて、ワイヤーを伸ばして調整する。


アンカーが刺さった蜘蛛は、そのワイヤーを辿れば何処にいるのか一目瞭然だ。


「シライシ、カワイ、合図でワイヤーの先を撃ってくれ」


伸びたワイヤーを両手で掴む。


「僕はな、見上げるのは嫌いなんだよ」


動いていたワイヤーの位置が止まった。


「…降りてこいよ、天釣りだ。行くぞ!」


二人の発砲と共に蜘蛛が鳴き声をあげる。力任せにワイヤーを下に引っ張る。


白い虚城から、玉座から、やつを引きずり下ろす。




落ちてきた蜘蛛にホルンが接近するが、蜘蛛はすぐさま起き上がり逃げようとする。


アンカーはまだ外さない。引っ張られそうになる僕の身体を、カワイが掴んで抑える。

金属が悲鳴を上げるように、ワイヤーがぎしぎしと軋む。


シライシの発砲で蜘蛛の脚が1本吹き飛んだ。緩くなった引きをもう一度引っ張り蜘蛛の体勢を崩す。


ホルンが盾に付いたグリップを握る。

肩の装甲が分離し、両端から音を立てて刃が伸びる。盾は変形し、巨大な両刃の大剣へと姿を変える。

あれがヘスティア。ハヅキの最新武装だ。


大きく振り上げられたヘスティアは蜘蛛の頭に叩き落とされる。

その瞬間ワイヤーの引く力が無くなりカワイと尻もちを着いた。




ヘスティアが床ごと蜘蛛を割った。刃が天井を仰ぐほど跳ね上がり、黒い巨体を真っ二つに裂く。


刃を戻し再び金属音を響かせ肩にマウントする。


「…グッジョブ」


親指を立てる僕を見て、ホルンはほんの一瞬だけ、照れくさそうに笑った。




再び遠くで地鳴りがする。あのムカデだろう。

カリンたちは大丈夫だろうか。


「カワイ、シライシ、ここの調査を任せる」


「…了解」


「ホルン、どうする?」


さっきの笑顔はもう無い。真剣にこちらを見上げている。


「…行く」


「よし、では行こ…」


一際大きな音がして地面が揺れた。何があったのか、確認しないといけない。

「ヘスティア(Hestia)」

ハヅキが試作した可変型戦術武装で、設計はサルビア。名称はホルンが命名した。

正式名称はアクロニム H.E.S.T.I.A.(Heavy Expandable Tactical Integrated Armament)。


通常時は、ホルンの両肩にマウントされた大型の防御盾として機能する。

主に射撃戦を担うサルビアの相棒であるホルンが、前衛としての支援・防衛に回るために設計された、守りに特化した装備だ。


盾上部に設けられたグリップのロックを解除し、マウントをパージすることで、盾の両端から刃を展開し、大型の両手剣へと変形する。

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