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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
サルビア:ケイフ/それでも前へ
32/111

見つかる

一度トラックに戻る。カリンは荷台の席にマグカップを優しく置く。


「…喜んでくれるでしょうか?」


「そうだな。きっと大丈夫だ」


各々がトラックに置いていた荷物から補給品を取り出し、飯を食ったり水を飲んだりする。


リズも真っ直ぐ歩けているし、カワイはケロッとしている。


「ベェさん。こっからどうするんですか?」


「まだツユクサの痕跡を追う。それでもあと10km位進んで進展がないなら撤退だな」


確実に、ツユクサはここに来ている。あいつならきっと、手記位遺してあるだろう。あの時は持っていなかったので、恐らくは何処かに置いてきたのだ。




トラックを再び走らせて住宅街をゆっくり進む。一応、1軒ずつ軽く見て回るが、それらしいものは無い。シライシとだべりながら、トラックの横を歩く。


「見つかりますかねこれ。広大な砂漠から1粒のダイヤを探すが如くじゃないですか」


「回収員なんてそんなもんだろ。地道に行こうぜ」


「俺が入った頃は、もっと近場でただ使えそうな物探すだけの仕事だと思ったのに」


「だから言ったろ?僕に付いてくるのは間違いだって」


「いや、多分ベェさんの隣が一番生き残れますから」


トラックの横を歩きながら、瓦礫や小石を蹴る音が返事の代わりになる。


偶に、ツユクサの落書きは見つけるが、それ以上の物は無い。

2km程進んだ辺りで荷台に座ってるサルビアとオダンゴと代わる。


横に座っているホルンは、足をぶらぶら動かしながら黙って下を見ている。

こういう癖はサルビアと似ている。一緒に住んでいると、そういうのは似るのだろうか。


「……」


「……」


ホルンと目が合うが、特に話すことは無い。向こうも同じらしい。


歳の近いカリンとリズはまだ外で捜索をしている。どうしたものか。


「ホルンちゃんは、サルビアさんとずっと一緒なの?」


シライシの問いにホルンが首を横に振る。


「ジローと、あそこに逃げてきた」


「ジロー?」


「サルビアとホルンが一緒に住んでる女性だよ」


「じゃあ、ジローさんがお母さんなんだ」


ホルンは再び首を横に振る。


「お母さんとは…」


言葉に詰まるホルンを見ていると、僕もシライシも何も言えない。

シライシは「やらかした」みたいな顔をしているが、そもそも今は人と世間話をしてれば地雷を踏むのは当たり前だ。


「…でも、やっと見つけた」


俯きながらもホルンは静かに言う。二人で耳を傾ける。


「見つけたって、何を?」


「私の…」


ホルンの言葉を断ち切るように、近くで建物が崩れた音が響く。トラックが小さく揺れる。


外に顔を出してサルビアに確認する。


「おい!何があった!」


「さぁね。でも、面白くなりそうだ」


「面白いのは後だ。一度トラックに…」


言いかけた所でトラックが急加速をする。外に放り出されそうになったのをシライシが背中を掴む。


その瞬間、目の前を黒くて大きなものが通る。

でかい。左から右に大きな音を立てて横切ろうとする黒いからだに、何本も細い足が生えている。


「タネ!カリン達の方に行ってくれ」


屋根の上にいたタネは小さく頷いてトラックから飛び出す。

巨大な虫から遠ざかりながら、トラックを置ける場所を探す。

戦線離脱だ。勝てない勝負はやるもんじゃない。




「カワイ、よく気づいたな」


「右から音が近づくからな。止まって死ぬよりマシだろ」


0.6kmほど離れた体育館の横にトラックを止める。遠くでは、まだあの巨大ムカデのような虫の暴れる音が響く。


僕、ホルン、カワイ、シライシの4人。他のメンバーはあのムカデのところに居る。


「カリンやリズは大丈夫でしょうか」


「サルビアが居るんだ…大丈夫だろ…多分」


いや待てよ。サルビアは逃げないからむしろ危ないのでは?今から戻るべきだろうか?

ホルンも遠くを見ている。表情は読めない。


シュル…


小さな音だったが、全員が気づいた。

体育館の中で何かが動いた。


「…どうする」


「…確認だけ」


ゆっくりと、体育館の大きな扉を開ける。金属が擦れる音が体育館の中に響く。


中は蜘蛛の巣が貼ってある。尋常ではない。

天井、壁、床の隅。まるで、空気そのものが膜を張っているような静寂の中、白い虚城を作り上げている。


正面奥の登壇ホール。その奥のカーテンに大きくVの字。間違いない。あれもツユクサの痕跡だ。


「ツユクサってやつは、随分と承認欲求が強いんですね」


「…いいや、あいつは逆に何も言わないよ、ここまで大きく書かなきゃ行けない場所なんだ」


「詳しいんですね」


「古参で1番のおしゃべりだからな、みんな詳しいさ」


「何も言わないのに?」


「肝心なことは、あの細い腹の中に詰め込んでたからな」


「まぁ、本音で腹は脹れませんからね」


静かに1歩前に出る。古い体育館は踏みしめると小さく音が鳴る。授業中の喧騒の中なら、きっと気が付かないレベルだが、残念ながら今は違う。


虫がいるのかどうかも分からない。カワイを見ても首を傾げるだけだ。


流石に埒が明かない。斧を抜いてみんなを隅に寄せる。少し真ん中に立ちゆっくり息を吸う。


「あーーー」


右上から動き出す。体を下げて斧を右に置き相手を待つ。


迫ってくる巨体は斧を飛び越えて左に消えた。武器の存在を認知しているのか。


シライシが発砲するが、糸に阻まれる。


近くにホルンが寄ってくる。虫の次の動きを待つ。

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