北部地域遠征
タネと電車に向かう。少し早く来すぎたかと思ったが、先にカワイがいた。
女性と何やら話していて、僕を見てからその女性は足早に立ち去った。
「今のは?」
「……嫁だよ」
あまりいい顔はしていない。さっきの女性も、どこか怒っているように見えた。
「……仲、悪いのか?」
「この仕事が気に食わないらしい」
そう言いながら、カワイは掲示板を見る。
掲示板には、マリーが依頼を集めて集計した「拾ってくると価値のある物」が、大きな紙にずらりと書かれている。
•酒(何でもいい)……180
•乾いたタオル(何枚でも)……30〜
•靴下(何足でも、大きさ不問)……30〜
•音楽プレーヤー(中身歓迎)……180
•猫のマグカップ(耳が3つの手作り。底に「さゆり」)……60
•帽子(日差しを防げるもの)……60
その下には、少し大きめの文字で、上からの手書き依頼が一枚だけ貼られている。
•トラック(8人以上乗れるもの)……300
そこにカリンとリズがやってきて、挨拶を交わす。
これまでケラ喰いや判別行動の話ばかりで、“本来の仕事”についてあまり触れてこなかった。この機に、簡単に説明しておくのも悪くない。
しばらく掲示板を眺めていたカリンが、何かを思い出したようにカワイに向き直る。
「カワイさん。マチェット……壊れてしまいました。すみません」
「そうだった。戦闘中に折れたんだ。僕からもすまなかった」
「そうか。いや、大丈夫だ。元から、あげたつもりだったしな」
そう言って、カワイは作業中の電車に乗り込んでいった。
ベゴニア、カリン、リズ、シライシ、カワイ、オダンゴ。
それにサルビアとホルンを加えた8人。そしてタネ。
8人なのは験担ぎだ。古参の15km調査から来ているらしい。
僕の班がメインになったのは、単にサルビアの班員が今回の遠征に誰も行きたがらなかったからだ。前回、彼女が何をやらかしたのかは知らないが、まあ、想像はつく。
眠たそうなサルビアの手を引いて、ホルンが現れる。何やら重たそうな大きな装備を背負っている。
「よろしく」
「……ん」
小さく会釈して、ホルンは電車に乗った。
電車の窓に、建物と沈黙が増えていく。
旧市街に入った頃に、サルビアの目は冴えていた。
待ちきれないというように、落ち着かない様子で窓の外を見つめている。
"一方"少し不安そうなカリン。眠そうにボーッとしているシライシ。
タネを撫でながら、旧市街へ進む車窓を見る。
東に向かうジニアとミナトと別れ、8人と1匹で北に向かう。
「トラックって、確か北側だよな?」
「キキョウ達が見つけたらしいからそうだね」
カワイと話しながら準備を進める。
横でカリンがリズと装備点検をしている。
「リズ。危なくなったら僕から離れないでね」
「え?うん」
真剣な顔のカリンと反対に、リズはどこか余裕がある。自分の体質を自覚していたりするのだろうか?
ホルンが背中に鉄製のベルトを装着し、両肩の突起に大きな盾を接続する。
盾は、まるで壁のような鉄板だ。上にはグリップのようなものが付いており、ホルンの体をすっぽりと覆い隠す。
彼女は肩の可動域を確認するように、盾を前後に動かしている。
「…すげぇな、あれ」
「…あぁ、すごいな」
オダンゴがホルンに近づく。興味深そうに尋ねる。
「それ、どういう武器なの?」
「…ヘスティア」
「え、あ。名前を聞いた訳では無いんだけど…」
オダンゴの困惑は無視され、ホルンはノリノリなサルビアの方にスタスタと歩く。
情報のあった所はそれなりに近場だったが、どうやら車庫に入っていたらしく気付かなかったようだ。
開け放たれたガレージに中型のトラックが2台並んでいる。
「…壊れてない。燃料も入ってる」
しかし鍵がない。ガレージの棚や引き出しを探してると。
ガンッッ!!
突然の破壊音に、全員がそちらを向く。運転席に居たサルビアが何かをこじ開けたようだった。
続いて、トラックのエンジンが唸りをあげる。
「早く虫殺しに行こ、待ちきれないよ」
ニヤニヤと笑い、トラックの屋根に乗り出す。その笑顔は、コミュニティでは絶対に見せない顔だ。
カワイの運転でトラックを1台ガレージから出す。
大通りに出ると埃っぽい風を感じる。
カワイが運転席、僕が助手席。そしてサルビアは、何故かトラックの屋根に陣取ったままだ。
降りる気配は無いが、多分、あいつなら落ちやしないだろう。
風を全身に受けながら、サルビアが立ち上がる。
「さぁ!害虫駆除の始まりだァ!!」
道を横切る虫を、散弾銃で片っ端から吹っ飛ばしながら、サルビアはゲラゲラと笑う。
他の隊員が付いていけない理由は、だいたいこれだろう。
それでも、その背中にカリンが目を奪われていたのは見逃さなかった。
「回収員の掲示板」
回収員の本来の仕事は"必要なものを取りに行くこと"である。
コミュニティが安定してきた現在においても、消耗品や細かな日用品等はいつだって必要になる。
時には回収員強化のため、時には旧市街に置いてきた誰かの思い出のため。
この仕事はまだ続けていく必要がある。
そんな人々の"欲しいもの"をマリーが集計。それぞれを分類し、値段をつけて、回収員に「これを取ってこい」と掲示板に貼り出すのだ。




