南のやり方
トラックが大きく揺れる。
この道の荒れ具合では、カワイの腕を責めるわけにもいかない。
荷台の連中は案外平気そうに見えるが、慣れと油断は紙一重だ。
トラックの屋根の上では、まだサルビアが騒ぎながら散弾銃をぶっぱなしている。あの体勢で撃てるのは凄いが、初めから弾を使いすぎでは無いだろうか。
「そのヘスティアって、防御しかないの?」
「……」
「かっこいいなぁ、僕もハヅキさんにお願いしたら専用武器、作ってもらえるかなぁ」
「……」
荷台で喋ってるのはオダンゴだけ。横のホルンに話しかけているようだが、無視されていて、ホルンは正面のカリンを見ている。
カリンもホルンを見つめているが、耳が少し赤い。年頃らしい表情をしているが、どこか葛藤も見える気がする。
トラックから顔を出してサルビアに声をかける。1度目は反応がない。
「…サルビア!」
「え!なに!?」
「弾!使いすぎなんじゃないか!?」
サルビアの横に結んだ髪と、開けたジャケットが強く靡く。2丁の散弾銃を掲げながら、目を細めてニヤリと笑う。
「こんな豆鉄砲は雑魚専門だよ!ここで使わないでいつ使うのさ!」
運転しているカワイが呆れた顔をしながらハンドルを握る。またトラックが大きく揺れる。
サルビアはよく落ちずにいられる物だ。感心する。
落人の籠をあっという間に過ぎて、トラックは平野で停る。
既に荒れ果てた畑だった土地に、虫の足跡が残っている。
「ベェさん、これはなんの足跡ですか?」
「鎌持ちでは無いな。体を引き摺った痕がある」
「畑を荒らすなんて、文字通り"害虫"ですね」
「死んだ土地だ。作物が無いならここは土壌回復の為にも頑張ってもらわないと」
「虫、殺さないんですか?」
「タネにとっては、ここも食い物畑みたいなものか」
他のメンバーも降りてくる。1度トラックを置いて痕跡を辿る。
畑の中にある小さな小屋に、虫が群がっている。何かあるのか。それを見てサルビアが近寄る。
小屋の横、黒い大きな物体がモゾモゾと動く。洞窟で見た虫だ。ダンゴムシをそのまま大きくしたような。明るい所で見ると尚キモイし、よく見ると要塞種とは少し違う。
「…丸まって転がるやつだ。潰されるなよ」
「知ってんだ。でも大丈夫。あれは平地じゃただのデカイ石だよ」
「サルビアは詳しいのか?」
「南じゃよく見る。あっちには可愛い子居ないし」
そう言いながらサルビアは矢をつがえて弓を引いた。矢は真っ直ぐ飛び、虫の甲殻の隙間に刺さる。
攻撃された虫は丸くなり横になった。
サルビアはホルンに目配せする。ホルンが前に出るのと同じタイミングでオダンゴも前に行く。
「ホルン、防御は任せていいんだよね?」
「……うん」
カリンも前に出ようとしたが止める。今カリンは近接武器が無い。何よりこの3人は南の旧市街で虫を殺してた奴らだ。少し見てみたい。
小屋の虫にタネが飛びかかって行く。
オダンゴがメイスを振り下ろす。堅い甲殻が思い切り凹み、少し肉が潰れる音がする。
虫は体を捻らせ暴れ始める。オダンゴにぶつかりそうになった所でホルンがヘスティアを構える。
右からの虫の体当たりを受け止め、左の盾を地面に突き刺して体勢を維持した。
むき出しの腹目掛けて、矢が空気を切り裂く。
それは虫の腹に当たり、その後虫の腹部は破裂した。シライシが苦笑いしながらサルビアを見る。
「…サルビアさん。今の、何なんですか?」
「矢の鋒にボンベが付いてる。あんたらが可愛い子に使ったのと同じだよ?」
「ははは、つまりあそこにサルビアさんが居たら楽勝だった訳ですね」
「嫌だよ、ボクは虫専門なの」
ホルンが刺さった矢を抜いてサルビアの所に持ってくる。
たしかに矢の先には小型の空気カートリッジ位の大きさの継ぎ手がある。
サルビアはそこにカートリッジを装填して矢筒に閉まった。使い捨てでは無いらしい。
オダンゴがこっちに歩いてくる。
「ベゴニアさん。俺、どうでしたか?」
「僕の斧では無理だっただろうな。硬い甲羅は叩き潰すのが良いのは参考になったよ」
「ベゴニアさんの痒いところは、俺が掻きます」
言い得て妙だが、その言葉がくすぐったい。
「助かるよ、オダンゴの方が腕長いし」
ホルンを見つめていたカリンと目が合う。
「参考になったな。僕らも精進しないとな」
「…そうですね」
タネはデカイ方の虫を食べようか悩んでいる。
小屋の扉には、あの花弁のV字の落書きかある。
カリンとリズと3人で小屋の中を探る。他のメンバーは外で待機。
時折発砲音がするので虫が居るのだろう。
農作業具や工具等が置いてあるが、ツユクサの手がかりは無い。
リズが柄の長いハンマーを抱えてカリンの所に寄る。
「武器、壊れたって言ってたけど…これどうかな?」
カリンがそれを受け取る。思いのほか重かったのか片手から両手で支えた。
「…うん。使ってみせるよ」
そんなやり取りを見ていると遠くの方で地面が揺れる。工具がカタカタ音を立てる。
外に飛び出すと、サルビアが目をギラギラと輝かせている。見つめる先には、住宅街を練り歩く巨大な影。
「…要塞種か」
「へぇ。あれが噂の…殺せない虫ね」
サルビアが走り出す。直ぐにホルンが後に続いた。
そのままオダンゴも走り出す。
カワイがこちらを見る。
「…行くのか?」
「正直言うと、気が乗らない」
その言葉を聞いてシライシがこちらを見る。手を前に出してジャンケンを仕掛けてくる。
…負けた。仕方ない。サルビアの害虫駆除に付き合うことにしよう。
作者です。恐らくはじめまして。
皆さんはどの花が好きですか? 作者はナスの花が好きです。というか、ナスが好きです。美味しいですよね。
戦闘シーンを書いていると、よく「なんで戦ってるんだ?」と思います。
だって回収員にとって、戦闘は金にならないじゃないですか。逃げた方がいいですよね?
ベェさんは、「戦わない選択肢“も”取れる人」です。
人に合わせられる柔軟性に、引っ張っていける強さを持ち合わせています。
彼ならきっと、良い結末に行ってくれると思います。彼には「選ぶ力」がありますから。
あなたのかつての名前も、もしかしたらこの世界のどこかに遺っているかもしれませんね?
今あなたは、どんな名前で生きていますか?
また機会があれば。引き続き読んでいただけたら嬉しいです。読んでいなくても、どうかご自愛ください。




