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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
キキョウ:シネン/落人の籠
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カリン:それでも会いに行く

カワイさんに水を貰う。手に取ってそれを見つめるけれど、口に運ぶ気にはならなかった。


また、守れなかった。


「…カリン、気持ちは分かるよ。でもベェさんなら大丈夫。リズもちゃんと守ってくれてるよ」


シライシさんが励ましてくれる。オダンゴさんが強く頷いている。

ベゴニアさんを疑っているつもりは無い。僕は、リズと離れるしか無かった僕の無力さが嫌いだった。


シライシさんなら、それでも踏み出したかな。


オダンゴさんなら、それでも力になってたのかな。


手が震えて、カップの水に映る僕の顔が揺れる。ミナトさんが僕の頭を撫でる。


僕はお兄ちゃんだから、今も泣いているかもしれないリズが居るなら僕は泣かない。


あの日、逃げるために父親を殺した。長い虐げで痣だらけのリズの手を引いて2人だけの道を歩いた時、そう決めたんだ。


それでも、泣かないからリズを救える訳じゃない。




物資を拾いながら長い、長い道を歩く。

アンカーの使い方はもうマスターした。崖の細い道の壁に打ち込み、1人ずつゆっくり進む。途中で足を滑らせて落ちそうになるけれど、ワイヤーを掴んで道に戻る。

カバンはいっぱいだったけど、さらに荷物を持った。これくらい持てなきゃダメなんだ。


「カリン君、無茶して危なくなっては遅いのよ」


ミナトさんが僕に言う。僕の荷物を持とうとするのをカワイさんが制す。


「男の覚悟を否定するもんじゃない。危なくなったらケツを押し上げてやるのが俺たちの役目だ」


カワイさんが眉を上げる。その僅かな表情に、背中を押された気がして荷物を持ち直した。




もうすぐ朝になる所で電車に辿り着いた。

先に着いていた他の回収員達が僕たちを見て驚いた顔をする。


「腕が6本のケラ喰いに襲われて、ベゴニアとリズとタネははぐれた」


「…そうか」


ジニアさんは静かに頷いた。隣の細身のメガネの男性は少し悲しそうな顔をしていた。


「大丈夫っしょ。ベェだし」


少し後ろで座っている弓を持った女性は足をふらふらさせながら言う。この人もベゴニアさんのことを信頼しているのだろう。


「…そうね。あいつには、私の造った武器があるし」


「まじー?今度ボクにも作ってよ」


「もちろん。サーちゃんはどんな改造がいいかな」


機械の脚の女性が真っ直ぐ前を向く。ベゴニアさんは色んな人に好かれているんだなと実感する。




電車に乗る。「古参」と呼ばれているらしいジニアさん、キキョウさん、サルビアさん、そこにベゴニアさんの代わりにカワイさんが話をしている。僕の横でシライシさんが教えてくれる。


「で、その古参の1人がベェさんってわけ」


古参。この命懸けの旧市街で最も長く生き残ってる人達。

ベゴニアさんの事を知るほどに、己の弱さが浮き出てくる。


リズは今、ちゃんとベゴニアさんの隣を歩けているだろうか。


「…ならば、少人数を編成してベゴニアの捜索に当たる。残りは1度コミュニティに戻り、再度準備を整えて戻れば良い」


ジニアさんがそう提案する。こちらを向いた。前を見すえる強い目。


「シライシくん。君は外せない」


「もちろんです。小さいベェさんを見つけるのは大変ですからね」


シライシさんが肩を回して立ち上がる。


「古参からは僕が行きますよ。万一ベゴニアさんが負傷していたら現場での対応が必要ですよね」


メガネの男の人、キキョウさんが前に出る。


ジニアさんがほかのメンバーを考えている。カワイさん辺りを見ているのを見て僕が手を挙げて立ち上がった。


「…行かせてください」


「カリンくん!?ここはもっと大人に任せましょう?」


「そうだよ。立て続けの遠征は危険だ」


「行けよ、カリン」


ミナトさんやオダンゴさんの説得をかき消すカワイさんの声。


「リズを助けに行って来い」


カワイさんが立ち上がり僕の前に立つ。後ろから大きな刃物を出して僕に渡してきた。


「俺のマチェットだ。俺がベゴニアくらい強けりゃ、こんな事にはならなかったかもしれん」


その言葉が自分の弱さも強調させる。僕の肩をカワイさんの大きな手が包む。


「俺は別に、誰かのためになんて生きちゃいない。だからあそこでリズを庇えるベゴニアや、今のカリンみたいなのには及ばない」


「…僕は、リズを守れなかった。弱い人間だ」


「カリンの覚悟。俺やリズに見せてくれ。お前のケツを持ち上げるのをシライシに任せる」


横のシライシさんが一瞬驚くが、すぐに笑って自身の胸に手を当てる。


「もちろんです。それが俺の大人としての役目ですからね」


「物資や人材リスク的にも、その人数が上限にしよう」


ジニアさんが静かに言う。僕の方を見て真剣な顔をする。


「我々回収員の貴重な人材。ベゴニア、タネ、リズをよろしく頼むよ。カリン」


「…はい!」


リズ、絶対に見つけるからね。


ベゴニアさん。僕、あなたに追いついてみせます。


「アンカーワイヤー」

回収員標準装備の壁面移動用ワイヤー。空気圧射出で最大20mを展開可能、巻き取りは手動ハンドルで行う。先端の逆爪スプレッドは壁面に刺さると展開し固定、内蔵する「筋駆線(きんくせん)」に微弱な静電気を流すと線が瞬時に縮み、爪を閉じて回収可能となる。静電気は手動ハンドルを回す過程で帯電される。筋駆線は旧文明由来のロストテクノロジーで、修理はできるが製造は困難。壁登攀、命綱、ターザン移動など多用途に使える回収員の生命線である。

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