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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
キキョウ:シネン/落人の籠
17/111

逃げた先で、落ちた先で

この仕事をしていると完全に昼夜逆転する。

横で寝ているリズを起こす。タネは睡眠を取っているのをほとんど見ない。今もどこからか捕まえてきた虫を食べている。


「…怪我。大丈夫そうですか?」


「悪化はしてないかな」


ゾンビにやられたわけではないが、旧市街でのちょっとした怪我は何があるか分からない。

肩と脚はアドレナリンが切れた時は痛かったが、医療品で応急処置は出来る。

リズから水と食べ物を受け取る。


「ありがとう」


久しぶりに深く寝た気がする。そうすると今度は喉が渇く。

カップの水を飲み干して、リズが自分の水と食べ物を持って無い事に気づく。


「…いえ。貴重なものなので…ベゴニアさんが使うべきです。から」


ぎこちなく笑って目をそらす。

でも時折こちらをちらりと見る。


「…そうか」


受け取った食べ物は包みを剥がさずカバンにしまう。無理に食べさせるものでも無い。と思う。

準備を整えて立ち上がる。




恐らく西に走ったつもりだったが、今どこら辺なのかはさっぱり分からない。

あまり高いビルは無い。郊外と言った雰囲気の住宅街の跡を南に進む。

地図も方位磁針も無いが、月の動きで進む方角は分かる。

回収員の目印も無いから、未開の地という訳だ。でも今はわざわざ物資を拾っている余裕は無い。


リズに疲れが見える。ちゃんと食べていないのだから当然だ。

やはり無理にでも食べさせるべきだろうか。


「…1度休もうか」


「い、いえ…まだ行けます。から」


「いやぁ、僕が疲れちゃった、はは…あそこにしよう」


比較的綺麗な民家の廃墟に入る。

中はそれなりにものがない。机や布団。回収員が運ばないような大きなものが置いてない。

しかし空き家と言うほど空っぽでは無い。


腰を下ろして一息つく。少しの間リズは立ったままだったけど、僕を見て同じく座る。


「ベェ、お腹空いた」


「そうだな」


タネの言葉に相槌を打っただけだが、リズが心配する。


「私のことはいいので…食べてください」


リズがカバンから食べ物を取り出すが、受け取らず先程しまった食べ物を出す。


「リズ、食べたくない?」


「えっと…」


リズは口ごもる。取り出した食べ物を半分にして片方を渡す。


黙って受け取り食べ物をじっと見ているリズを見ながらもう半分の食べ物を口に入れる。


僕が食べるのを見ていたリズのお腹が鳴る。恥ずかしそうにするので思わず笑ってしまう。


「ベェ、変」


こちらを見てタネが首を傾げる。


「リズ、さっきはありがとう。リズのおかげで生き残れた」


「わ、私は別に…ベゴニアさんが動けないとダメですから」


リズは受け取った食べ物を持ったままモジモジする。

リズは優しいんだな。と思う。言葉にするべきだろうか。一人で生きようなんて言ってたせいかな。難しいな。


リズが食べ物を食べずしまうので立ち上がる。まだ先は長い。食べたい時に食べればいいか。その時横で支えてられるように、僕も元気でいないとな。


「行こうか」


「はい」




南に歩いて1km程だろうか。目の前に大きな地面の裂け目がある。底はよく見えないが、ムカデに羽が生えたような虫が裂け目を飛んでいる。こいつも見た事ない。

横を見てもかなり長い裂け目だ。回り道をする場合かなり大掛かりになるだろう。


裂け目は15m位か。ワイヤーの長さ的には問題ない。


「リズ、アンカーの使い方は大丈夫?」


「だ、大丈夫です。多分」


タネを背負ってアンカーを向こうの崖の1番上に刺す。引っ張って強度確認。大丈夫そうだ。

リズも同じようにアンカーを刺す。


「同じようにやれば大丈夫だから」


ワイヤーを掴んで飛び出す。弧を描いて向かいの崖に足を着く。虫はこちらに反応しない。


「ベェ。あれ食べたい」


「自分で取れるか?」


リズはまだ飛ばない。指先が微かに震えている。僕もそうだったなと懐かしくなる。


タネは僕から離れてしっぽで器用に虫を殺す。

そのまま崖で虫を食べ始める。剥がした殻が崖に落ちていく。

風が吹き抜ける音に、タネが虫の肉を食べる音が響く。


しばらくジッとしていたリズが飛ぶ。同じく弧を描いて壁にぶつかる。痛そうだが、大丈夫そうだ。


「怪我は無い?」


「はい。大丈夫そ─」


リズのアンカーが外れた。設置確認が足りなかったか。

僕のアンカーを外して壁を蹴って走って落ちる。

何とかリズを掴んでワイヤーを掴み、もう一度壁にアンカーを刺した。

腰に衝撃が来る。


「ごめんなさい…」


「そんな時もあるさ」


落ちたから見える物もある。底が見えた。

廃材や壊れた車が落ちている。


タネが捨てた虫の殻を見ていた人間と目が合った。

ゾンビでは無い。回収員のジャケットは羽織っていない。なんならガスマスクもしていない。

真っ直ぐな眼差しがこちらを見ている。


タネが気づいて壁をおりてくる。


「ベェ、どうした」


それを見て彼は膝をついて頭を下げた。怯えている訳ではなさそうだが。


ワイヤーを伸ばして地面に足をつける。タネも下りてくる。

彼は頭を上げて両手を合わせる。


「ようこそお越しくださいました。タネ様」

彼はもう一度頭を下げる。呼ばれたタネはキョトンとしている。

とりあえず、敵では無いかもしれない。

「回収員ジャケット」

回収員は旧市街でお互いを認識するために専用のジャケットを羽織る。

鈍い黄色でフードの付いたシンプルなジャケットだ。

旧市街であまり目立ちすぎず瓦礫の中で仲間を発見するのにも役立つ。

前部に複数付いているポケットはペレット弾や目印用のペン等各回収員に応じて使い分けている。

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