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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
キキョウ:シネン/落人の籠
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生態系の頂点

6本腕がタネを睨む。タネが少し後ろに下がる。

6本個体の風格はこちらにも伝わってくる。倒れた建物の上にただたっているだけだが、その神々しさや如何に。


「…ベェさんどうします」

「もちろん撤退だ。だがタネは置いてけない」


2匹に緊張が走る。6本個体はこちらの動きに目もくれずタネを見つめている。


「僕がタネを連れて逃げるから、先逃げていいよ」


短い期間だが情が湧いたのも事実だ。斧を持ってタネに近づく。

僕が近づいても6本個体は動じない。脅威でも無い扱いか。

タネは以前よりさらに警戒している。


タネの方に歩きながら視線は6本個体から離さない。6本個体の僅かなしっぽの動きを見て正面に斧を投げる。

空気圧縮のブーストでカッ飛んだ斧が6本個体のしっぽとぶつかりタネのすぐ横に落ちる。


ようやく僕に気づいたらしい。目が合う。

瞳の模様が細くなったり幾何学模様になったり変わる。タネが僕の背中を掴む。


「タネ、君はあいつの攻撃を捌くだけでいい」


後ろに言う。服を掴んだ手がさらに握られる。


斧に手を伸ばす。6本個体のしっぽの攻撃が飛んでくるが目の前で弾かれる。

斧を拾い立ち上がるまでに何度もしっぽの攻防が目の前で火花を散らす。


間合いはある。1歩ずつ後ろに下がる。

体が小さいおかげでタネのカバー範囲も小さめだ。背中にしがみつきながらしっぽの攻撃を捌くタネを背負ってゆっくり後退をする。


「いいぞ、タネ。上手だ」


痺れを切らした6本個体が前進する。苛立ちは顔に出ないが瞳の模様が変わる。

これがユユの言う知能の差だろうか。


音と揺れを感じ攻防が止まる。いつでも介入出来るようにしていたみんなも手が止まる。

この振動は身に覚えがある。音の主はすぐそこのビルから影を表す。

要塞種。胞子の中だとより1層不気味だ。

6本個体が要塞種を見つめる。攻撃対象が変わった。


「ベゴニア!」


カワイの声で逃げる。要塞種に飛び写った6本個体が要塞種の背甲を引き剥がしていた。



ボーダーラインまで走って戻ってくる。全員生きてるのは運がいいだろう。各々息を整える。


「あれが要塞種ですか…」


「そうだな…現状俺らに対抗する手段はない」


そんな要塞種の背甲をいとも容易く引き剥がしていた。皮肉にも僕らはあいつに助けられた訳だ。

背負っていたタネを下ろす。


「ベェ」


「ありがとうタネ。おかげで帰ってこれた」


心做しか嬉しそうだ。頭を撫でてやる。




「おい、ベゴニア」


カワイの声に緊張感を感じる。一瞬の息継ぎだった。

そこに6本個体が追ってきいた。手には虫の肉を持っている。まさかあれを殺したというのか。


ボーダーラインは越えた。しかし6本個体はそのラインを気にせず踏み越える。やつにとってこの境界線はなんの意味もない。


「ベェさん…どうしますか」


ここで全滅が最悪だ。そして追われているのはタネとの僕だ。


「帰って情報共有しておいて欲しい」


「ベェさん。それは」


カワイやミナトは判断が早い。小さく頷くミナトに信号弾を2発投げて渡す。


シライシが何か言いかけたが言葉を遮るように6本個体が距離を詰めてきた。目がこちらを捉えている。


対応が遅れた。パーティが僕とタネとリズ。他のメンバーで綺麗に分断された。


「リズ、僕から離れないで」


リズが僕の後ろに隠れる。背負われて抵抗するカリンの声を無視して他のメンバーが撤退を開始する。




僕とタネ2人では防戦一方だ。どうにかしてリズを逃がしたい。

数の不利をやつも理解している。迂闊に組み合っては来ないが、少しずつ間合いをつめてくる。


背部腕で攻撃を捌きしっぽでの攻めの攻守一体の動きは僕らでは突破できない。しっぽが脚を掠める。

微かな痛みが走る。時間の問題だ。


リズは大丈夫かと目を逸らす。さっきまで居た場所にリズが居ない。


「リズ…?」


注意がそれた。尾が振り抜かれる。斧で攻撃を受け止めるが嫌か感触が伝わる。

斧が砕け、力が抜けてしまう。体が傾いた。


その隙を逃さず6本個体が飛びかかってくる。大きく口を開けて殺気迫った塊が目の前いっぱいに映る。

その時、小さい破裂音。火花と共に右からペレット弾が飛んできてやつ顔面の軌道が僅かにズレた。


リズが撃った。銃口が震えていて、反動で尻もちを付いている。

なぜ攻撃されなかったのか。なぜ撃てた。よく当てた。


この隙を逃さない。壊れた獲物を持ち直し割れた斧で頭に振り下ろす。


大きく弾ける音で火花が飛ぶ。


タネのしっぽが振り抜かれ、6本個体の背部腕を1本切り落とした。


甲高い悲鳴をあげながら6本個体…いや5本個体が距離をとる。

こちらも起き上がろうとした時、その空気を切り裂く別の鳴き声。

別のケラ喰いが姿を見せる。4本個体だ。


「マジかよ…」


だがこうなると5本個体はこちらに目もくれない。

4本個体と向き合い掴み合い始める。


逃げるのはここしかない。尻もちをついてるリズを抱えて走る。タネが後ろを振り返りながら付いてくる。


その時4本個体が大きく叫んだ。思わず耳を塞ぐ。


悲鳴でどこからかケラ喰いが数体顔を出した。まだこんなにも居たのか。


こうなれば好機だ。この乱戦では5本個体は追ってこなれないだろう。血と火花が飛び散る乱戦を潜って走り抜ける。


足の傷は後でいい。帰るのも後だ。


今は生き残るのが先だ。

「生態系」

現在東の旧市街では独自の生態系を確立している。

建物を覆う程繁殖した胞子を虫が食べにくる。その虫をケラ喰いが捕食し、胞子は死体を分解する過程で微力の酸素を生成する。ボーダーラインから虫が大型化するのもこれが由来と考えられる。


また、胞子は広範囲を移動する虫に付着して繁殖地域を拡大し、ケラ喰いには虫からの食害への抑制という形で、虫とケラ喰いの2つの種から、複数の共生関係を維持している特殊な生態を持っていると考察される。


虫同士で争うことは無いが、ケラ喰いはその中でも腕の数でヒエラルキーがあるようで、強い縄張り意識から同種での争いが本能的に存在する。

タネの「ママになれない」と言う発言もこの習性を示唆しているようだ。

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