もっと遠くまで
改めて編成された回収員の僕の隊。
隊長なんて柄じゃないし、人の上に立つ経験も無い。
でも、今はそうするしかない。
僕、カワイ、オダンゴ、ミナト、新人のシライシ、カリン、リズ、あとタネの7人と1体。
カワイは東で顔なじみの有能な男。
オダンゴは南で近接戦を得意としていた男。
ミナトはジニアと奥地調査をしていた女性で、僕よりそっちに詳しい。
電車の中で簡単に自己紹介を済ませる。
「分隊ねぇ、悪くはないが急に人と仕事するのは慣れないね」
「俺は嬉しいですよ、近接最強のベゴニアさんと仕事できるなんて」
「分隊を組むってことは奥まで行くんですか?」
「少しずつね。まずは新人3人の様子を見てからだ」
遠征は5日。7〜8人の4部隊で少しずつ遠くを目指す。
ジニアは東、サルビアは南東、キキョウは北、僕は北東。進みながら回収できそうなものに目印を付けて帰りに回収する流れだ。
外縁7km地点。線路が伸び、ここまで電車で来られるようになった。
工業地帯手前で停車し準備を整える。
電車の最後尾に載っている新兵器「補給支援砲台」の試験も兼ねている。
今回乗ってきたハヅキが手を振る。手を振り返したあとで手招きだと気付いた。
渡された弾を込め上に向けて撃つ。赤い煙を巻きながら空に撃つ。
高所で監視しているハヅキが目標を確認し、物資を撃ち込む仕組みだ。
「多少ズレると思うけど、多分大丈夫」
皆少し不安そうにするが、ハヅキが多分大丈夫というなら多分大丈夫なのだろう。
僕たちは北東へ。目標は外縁11km。斜めに進むので遠い。
東にジニア、南東にサルビア、北にキキョウが進む。
「ベゴニアさん、是非色々教えてください」
オダンゴが笑いながら寄ってくる。
屈託のない笑顔は後輩らしくて可愛らしいが、後輩兼相棒のシライシはカリン、リズと話している。少し複雑だ。
物資の残る廃墟に印を付けながら進む。
虫は出ないが、移動だけで体力を削られる。
外縁9km、夜が明ける前に休むため、穴の空いていないビルの3階に入った。
今日も雨が降っている。外を眺めていると遠くで赤煙が上がる。ジニアの方角だ。
その直後、白煙を上げながら砲台の弾が飛来し、虫を蹴散らしながら赤煙近くに着弾する。誤差は100mほどだ。
「…あれ、人が乗る予定だったんですよね?人間花火になりそうですね」
「考える事はみんな一緒か」
簡易空気清浄機を起動。リズ、シライシ、ミナト、カワイが先に寝る。
タネは壁に張り付いて虫を見ている。
オダンゴが飯を食べながら話しかけてきた。
「ベゴニアさん、昔から強かったんすか?」
「まぁ、人並み以上には。でも虫を殺した数ならサルビアの方が上だよ」
「でも、近接でバシバシ倒すのがカッコいいじゃないですか」
褒められるとくすぐったい。カリンが装備を点検しながら会話を聞いていた。
「オダンゴはどんな武器使うんだ?」
「これっす、どうです?」
長柄の両手用メイスだ。カリンが不思議そうに見ている。
「メイスなんて、この国に落ちてるんだ」
「俺もこの仕事で初めて使いましたよ。潰した方が楽ですから。ベゴニアさんはなぜ斧なんです?」
「筋力が無いから。刀より破壊力があって回避しやすいからね。」
斧はパンデミックの頃から使っていて、手に馴染んでいた。
カリンが顔を上げる。
「…虫に近づくの、怖くないんですか?」
「怖くないといえば嘘だけど、カッコいいだろ?」
オダンゴが笑顔で言う。
「…死んだら元も子もないですよ」
「どう死ぬかは選べないし、そこは怖くないんすよ。せっかくならカッコつけて生きたいじゃないすか」
命を軽視しているわけじゃない。戦う者の覚悟なのだろう。
その時、上階から足音。
不規則で軽い、裸足ではないが、生きた人間の歩き方ではない。
「…確認する。」
ライトで照らしながら階段を上がると、ジャケットを着たゾンビが立っていた。肌は灰色で立ち方がおかしい。
「げっ…なんで!?」
空気銃で撃つと片脚が吹き飛び、ゾンビが這い寄る。もう一発、腕が吹き飛ぶ。
「不味い!ベゴニアさん!」
視線を向けると、まだ12体ほど居る。
「階段で迎え撃つ!下がれ!」
「補給支援砲台」(ほきゅうしえんほうだい)
人間を遠距離へ射出する目的で開発された大型空気圧縮射出装置。高重量物を高高度・長距離へ投射可能だが、負荷が大きいため連続使用不可で使用後は必ず点検を要する。
現在は物資輸送専用装置として運用され、昼間の安全確認・座標調整下で使用される。コミュニティ周辺の鉄資源は比較的豊富だが、回収資源の方が質量ともに優れ、製造より回収が優先される状況にある。
構造自体は変わらず「必要なら人間も飛ばせる」という設計思想が今も残る。




