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終末都市の塵芥  作者: Anzsake
ベゴニア:ヘンカン/ちっぽけな僕ら
1/132

プロローグ:生活の果て

**


『…ありがとう』


それが最期の言葉だった。酷くやせ細った骸骨みたいな顔が、隈が酷い目を閉じた。


その首に、大きく斧を振り下ろした。


褒められる事をしたんだ。そう自分に言い聞かせる。


これで72人目。


まさか最期が破傷風とは、こいつも予想してなかっただろう。僕もそうだ。まさか最後の1人になるなんて思ってなかった。


腰を上げて斧を捨てる。何も無い空を見た。街灯のほとんど無いこの村の星空が好きで、ここに引っ越したんだ。


静かな音を立てる焚き火に死体を入れる。もう横で悲しむ人は誰もいない。

やっと、肩の荷が降りたような気がした。それと一緒に、大事なものも火の中に落ちた。


こぼれた雫は、この火を消すには少なすぎる。


黒くなっていく死体をボーッと眺める。何時からゾンビは見なくなっただろう。

村の入口に張ったバリケードも、溜め込んだ食料も、もう必要ない。


これから何をすればいいだろう。ずっと、村の人の為に駆け回った。

必死で守った。その結果がこれだ。


生き残った人は、どれくらい居るんだろう。ラジオもネットも随分音沙汰無しだ。


それでも、この村から出る気は無かった。死に場所はここだと、決めていたつもりだ。


小さな自分の小屋のドアを開けて、机の上に置きっぱなしのノートとペンを取る。

もうすっかり寒い夜空の下で、焚き火の前に座って書き出した。


野菜の育て方、動物の痕跡、火の起こし方。生活の果てに残った全てを、そこに書き連ねた。


いつか、ここでこれを手に取った誰かが役に立てるように。それしかやることがない。


静かに閉じたノートの裏に、自分の名前があった。もう誰にも呼ばれない。もう名乗る事も無いその名前を、ペンで塗りつぶした。

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