無力からの逆転劇―“記憶の使者”が紡ぐ異世界の運命
よろしくお願いいたします。
「リオ、あなたの職業は“記憶の使者”ね。」
神託の儀で発表された、僕の職業は「記憶の使者」だった。周囲からは一瞬の静寂が広がり、その後、ひときわ大きな笑い声が響いた。
「記憶の使者って……記憶を奪うだけじゃないの? それじゃ戦えないよな!」
まさに、そんな感じだ。僕は無力で、使えない存在だと思われていた。戦士や魔法使い、剣聖、賢者といった煌びやかな職業と比べると、「記憶の使者」という職業は、その名の通り、記憶を“使う”ことしかできないと思われていた。
だが、僕にはその職業が意味することが、まだわかっていなかった。
僕が持っていた力、それは他者の記憶を触れることで知ることができる力だった。初めはこの力に困惑した。相手の記憶を奪うことはできても、何の役にも立たないと感じていた。
だが、次第に気づいた。
「記憶がわかれば、その人の過去、思考、経験、弱点まで全てが見えてくる。もし、それを活かせば、何かできるかもしれない。」
僕は決してあきらめなかった。記憶を手に入れることで、目の前の問題を解決する方法を見つけ、少しずつ成長をしていった。
例えば、冒険者として最初に受けた任務。鬼族の討伐だった。しかし、ただ戦うだけでは勝てない。僕は敵の過去の記憶を見て、その中にある弱点を見つけ出した。敵が過去に恐れていたモンスターの姿を見て、彼らを恐れさせることで、戦わずして勝利を手にした。
「ふふ、記憶を操ることでこんなに楽になるとはな。」
戦闘も冒険も、僕の力によってどんどんと有利に進んでいった。
ある日、僕は大規模な冒険者パーティーの一員として参加することになった。そのパーティーのメンバーは、どれもが強力な能力を持つ者ばかりだった。戦士のエリック、魔法使いのリナ、治癒師のカティ。みんな強く、頼もしい存在だ。
だが、その中で僕だけが、いわゆる「弱者」として扱われていた。
「おい、記憶の使者。お前、戦力にならないんだろ?」
エリックが冷たい言葉を投げかけてきた。彼の剣技は非常に強力で、魔法使いのリナも敵を瞬時に消し去る力を持っている。治癒師のカティは、どんな傷も瞬時に癒すことができる。そんな中で、僕の力は単なる「記憶を奪う」ことしかできない。戦闘には無力だ。
だが、僕は気づいていた。彼らが見ていない部分にこそ、僕の力が生きる場所がある。
僕は静かに言った。
「記憶を奪うだけでなく、それを活かす方法があるんだ。」
その時、僕はエリックの過去に触れた。彼がかつて、最も大切にしていた人を失った記憶。その記憶には、彼の「恐れ」が詰まっていた。僕はその恐れを引き出し、エリックが今までの戦いの中で抱えていたトラウマを理解した。
その理解が、エリックの心を開かせた。
「お前……、なんでそんなことがわかるんだ?」
それは、僕が他人の記憶を知ることができる「記憶の使者」だからだ。僕はその力を使い、エリックの心を支えるようになった。彼の力を引き出し、真の強さを発揮させるために。
パーティーのメンバーが一致団結したとき、僕たちは次々に難関の冒険をクリアしていった。しかし、ある日、僕は重大なことに気づいた。
「記憶の奥深くには、単なる過去だけでなく、未来の可能性すらも見えることがある。」
僕が触れたある人物の記憶から、未来に起こる大災害の兆しを察知した。まるで未来の記憶がその人の中に埋もれているようだった。僕はその情報を基に、パーティーを導き、予言された災厄を未然に防ぐことに成功した。
その瞬間、僕は気づいた。
「僕が持っている記憶の力、これこそが本当の意味で世界を変える力だ。」
僕たちの冒険は続き、ついに最後の戦いが訪れる。世界を滅ぼす力を持つ邪神の復活が迫っていた。僕はその邪神の過去の記憶を追い、彼の誕生から復活に至る経緯をすべて知った。実はその邪神も、元は人間だった。
僕はその記憶を、再度解析した。
「彼の恐れと絶望を知れば、彼を止めることができる。」
邪神の弱点を見つけ、過去の痛みを理解したことで、僕は最終的に彼を倒す方法を見つけ出す。そして、彼を救い、破壊の道から外れさせることができた。
戦いが終わった後、僕は再び仲間たちと共に過ごした。僕が「記憶の使者」として歩んだ道は、決して楽なものではなかった。だが、その力が世界を救い、仲間たちと絆を深めていったことは、何にも代えがたい宝物だ。
「リオ、君がいなければ、俺たちは絶対にここまで来れなかった。」
エリックの言葉に、僕は微笑んだ。
「僕はただ、記憶を紡いだだけさ。」
僕はそう答え、未来を見つめる。過去も未来も、全ての記憶を紡ぎ直すことで、僕たちは新しい道を切り開くことができる。
ありがとうございました。