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《☆》邪魔者な私なもので

☆さらっと読めるショートショートです。

 王立学園の放課後のカフェテラスは、授業が終わって一息ついている生徒たちで賑わっていました。


 その中の一つのテーブルで、私は婚約者の伯爵令息ウィレル様と妹のジェルソミーナと向き合っています。

 なぜか、ジェルソミーナは勝ち誇った顔でウィレル様の隣に座っています。こういう時の席順を勉強したはずなのに、後でもう一度ちゃんと教えてあげないといけませんね。


 そんな事を考えていたら、ウィレル様が言いました。

「今夜、ジェルソミーナを食事に招待したんだ」

 まあ、婚約者の妹にも食事を振る舞うなんてお優しい方。


「ジェルソミーナは学園で肩身の狭い思いをしているからね」

 ジェルソミーナは、伯爵の父と愛人の間に生まれた子です。六年前に私の母が亡くなって、後妻とその連れ子として我が家に入りましたが、父とそっくりな顔と、私と半年しか誕生日が違わない事で、事情は誰もが察するに余りあるものでした。


「なので、息抜きにレストラン・シルフィに招待した。了承してくれ」


「……何故でしょう?」

 思わず声に出てしまいました。

 ウィレル様は、ご自分の親切に文句をつけられたと思ったのか激昂しました。

「羨ましいのか! 血の繋がった妹をレストランにも連れて行ってやらない姉は、さすが心が狭い!」

 あわてて説明します。

「あの、『何故』というのは、私はレストランとはシェフが休みの家の人が行く所だと聞き及んでおりますので、何故シェフが休みでもないのにレストランに行くのかと」

 食事を振る舞いたいのでしたら、ご自宅でよろしいのに。


「……は?」

 

「『羨ましいのか』とおっしゃってましたが、レストランとは何か羨ましい事が起きる所ですの? 私、レストランに行った事が無いので存じ上げなくて」


「行った事が、ない……?」


「はい。我が家は一度もレストランに行った事がありませんのよ」

 ねえ、とジェルソミーナを見たら、ブンッ!!と音がしそうな勢いで目を逸らされました。


 それを見て、一瞬で理解しました。


 ジェルソミーナは、レストランに行った事がある。


 時々ある私が一人で食事をとる夜は、きっと親子三人でレストランに行ってたのですね。

 わざわざ三人別々に帰ってきて、私に気付かれないようにして……。

 

 ……馬鹿みたい。『シェフが休みの家が行く所だ』なんてずっと信じてたわ。

 私は……皆の邪魔者だったのね。


 涙がにじんできた。


 私は黙って立ち上がり、カフェテラスを出ました。

 ウィレル様とジェルソミーナが言い争っているのも、カフェテラス中の人たちが私たちに注目していた事にも気付かず。


 


 私を待っていた送迎の馬車に乗り込んだのですが、邪魔者だと自覚したのに家に帰る気にはなれず……。

 御者に行き先変更を言うと、快く受け付けてくれました。


 領地の、お祖父様とお祖母様の家に。


 銀行に行って、「何かあったらこのお金で領地に来なさい」とお祖父様とお祖母様が預けておいてくれたお金をおろします。

 銀行の支配人が「大金を持った女性の一人旅は危険だ」と、家に使いを出して侍女と護衛を呼び寄せてくれました。


 私たちは観光などを楽しみつつ、ゆっくりと領地へ向かいました。






 一週間後、沢山のお土産を買い込んで領地に着いて祖父母に歓迎された時には、私は大分立ち直っていました。


 そこで知らされたのは、既に私とウィレル様との婚約は破棄され、ウィレル様とジェルソミーナは貴族籍から除籍となって家を出されたという事でした。

「あの女が家に乗り込んできた時からこうなると思ってた」

と、お祖父様とお祖母様は怒っているのですが……。


 邪魔者は私なのに、何故ジェルソミーナが除籍に……?

 ウィレル様まで?


 祖父母の同情の目に、私は自分がウィレル様とジェルソミーナとの仲を邪魔していたのだと気付きました。

 二人は、私から離れて幸せになる事にしたのですね。




 気づいてあげられなかった不甲斐ない姉でした。


 今はどこにいるか分からない二人に、心からの謝罪と幸せを祈ります。

2025年4月12日 日間総合ランキング

6位になりました!

ありがとうございます(〃ω〃)

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