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un call  作者: 月団子
7/10

Part6 収穫ゼロ

まず初めに、2ヶ月も更新が空いてしまってすみませんでした!!!!!!!めちゃめちゃ忙しかったんです!!!!!!!!!!

とても週1投稿できるような環境じゃなかったんです……。


というわけで、今更ですがこれからは不定期更新に変更させていただきます。失踪はしません。多分。


さて、今回からは不倫調査が始まります。

とある夫婦の間に突如浮上した不倫疑惑。

浮上した理由は?本当に不倫しているのか?何故摩耶はこの依頼を受けたのか?

一見謎解きモノのようですが、そんな事はありません。今回も摩耶はストレートに依頼と向き合います。


テーマは『愛』。是非お楽しみください。

 ある金曜日の夜。

 暗い街を月と電光掲示板やネオンライトなどの光が辺りを照らしている。

 多くの飲食店が立ち並ぶ中、少し道を外れれば昼間は気にかけることもないような怪しげな店たちが姿を現す。

 ここは大都会の少し外れた場所にある商店街なのだ。


 摩耶は今回軽い変装をし、ある人物を尾行している。

 ターゲットは「佐々(ささき) 亜優(あゆ)」という20代の女性だ。依頼主は「佐々木 清伍(せいご)」、さほど歳の変わらない彼女の旦那である。

 ターゲットには不倫疑惑があり、疑ってしまう情報はあるが決定的な証拠がないため調査をしてほしい……というのが今回の依頼内容だ。

 珍しく探偵らしい依頼が入ったと摩耶も気合いを入れているのだが、どうにも調子が狂う。


「カンパーイ!」


 それもそのはず、ターゲットは仕事仲間と大きな居酒屋に入り、已む無く摩耶も居酒屋に一人で入り様子をうかがいながら満腹にならない程度に一品をちまちまと注文している。

 盛り上がる飲み会を見ながら、一人で水を飲み小皿を平らげることがだんだん虚しくなってくる。


「普通に会社の飲み会じゃん。大勢の前で、怪しい挙動するわけないと言えばそりゃそうなんだけどさ」


 小声で愚痴を零しながらもターゲットからは注意を逸らさない。少しでも警戒されてされてしまえばかなり動きづらくなってしまう。

 あくまで一般客……独り身の物寂しげな女性を演じているのだ。


「先パァァァイ、今日は本当にありがどうございまじだあぁぁぁ」


「桜ちゃん、二口飲んだだけでもう酔ったの?」


「先パイが居なければわたじクビになるところでじだぁぁぁ……」


 亜優は桜と呼ばれた女性に泣きつかれている。先輩と呼ばれているあたり会社ではある程度の立場があり、後輩からも慕われている様子だった。


 ターゲットは若くして大企業に就職し、その中でも周囲に劣らず業績に貢献しているエリートであり、人脈も広く、隙の無い人物だと摩耶は聞いていた。実際摩耶の目に映るのは部下に手を差し伸べ、飲み会でも笑顔を振り撒く既婚者の非の打ち所のない完璧な女性だった。

 スナック菓子を貪りながらオレンジジュースを片手にネットニュースを眺める昨夜の自分を思い出し、頭が痛くなる。


 1時間半ほど過ぎた頃、酔い潰れた者や疲れが見える者が出始めた。

 初めは盛り上がる飲み会をカウンターから横目で観察する摩耶だったが、その盛り上がりが徐々に失われていくと共に段々飽きてきたのか、頭をカクカクさせながら睡魔に耐えていた。


「みなさん、そろそろお開きにしませんか?」


 亜優の一言により、飲み会は一気にお開きムードへと変わった。

 多人数が集まる場でこういった気の利いた一言を言える人物というのは重要なのである。完璧な彼女は、その役割すら難なくこなしているのだ。

 その様子に気づいた摩耶はグラスにほんの少し残っていた水を飲み干し、鞄を持ってさっさと会計を済まし外へ出た。


「ごちそうさま」


 あとはターゲットが店から出てくるのを数分程度待つ。しかし今度は先程とは違い、姿を見られる事すら控える方がいい。何故なら居酒屋内で自身を認識されている可能性があるからだ。「さっき居た人だ」などと覚えられてしまうと、今後動きづらくなる可能性が高まってしまうのではと、尾行慣れしていない摩耶は考えた。


 物陰に隠れ、伊達眼鏡を外して上着を脱ぎ、シワも気にせず丸めて鞄の中へ入れた。念の為にかぶっていたウィッグも外し、同じく鞄の中へ。その鞄の中からエコバッグを取り出し、広げたエコバッグの中へその鞄を入れた。

 これで居酒屋にいた頃と共通点はどこにでもあるようなデニムのパンツと少し汚れた白のスニーカーのみとなった。

 居酒屋の入り口を見ていると先程まで観察していた一行が現れた。もちろんその中には亜優も含まれている。


「「「お疲れ様でしたー」」」


 各々が軽く礼をしながらそう言い、それぞれの帰るべき場所へと向かおうとすると……。


「2次会、行きませんか!?」


 30代ぐらいの男性が言った。

 一行の中に軽く酔っ払った者はいるものの、酔いつぶれている者は居らず、大半が参加しそうな雰囲気だ。

 

そして肝心の亜優は、桜と呼ばれた後輩に「いっしょに行きましょうよぉ」と誘われていたが、「今日は早く帰らなきゃだから、ごめんね」と断り、一人で駅へと向かった。摩耶も同じぐらいの速度で、十数メートルほどの距離を空けたまま跡を付ける。


 亜優にとって来慣れた地なのか、迷うことなく進んでいく。一方都会慣れをしていない摩耶は、ターゲットを見失わないよう注意しつつ、居酒屋や大人の店が立ち並ぶ商店街を目に焼き付けている。


 数分ほど歩き、長いエスカレーターで登った後に駅の改札を潜った。ターゲットは第二車両の一番扉から乗り、それを後ろから見た摩耶は三番扉から乗って、そのまま扉横の空間に立った。ここが最も車両全体が見渡しやすい位置なのだ。


 ……それにしても、浮気らしき場面は一つも見当たらない。仕事とはいえ、なんとなく尾行し続けている自分が悪いようにさえ感じ始める。


「だから嫌なんだよ、尾行」


 つい数時間前まで上がっていたテンションはどこへやら。こういった時間と根気の必要な調査は摩耶にとって苦手分野なのだ。これからまた数日間尾行することを考え、初日にしてうんざりしている。

 吊革に体重をかけると、残業帰りで項垂れるサラリーマンと同じようなポーズになった。


 十数分ほど電車に揺られ、到着した駅で多くの人と共にターゲットが降りるのを見て、摩耶も跡を追うように電車を降りた。

 電光に照らされた明るい改札を抜け、夜の住宅街へと向かう者と、住宅街へ向かうように尾行している者。

 片方はコンビニのすぐ側にあるマンションの中へと入っていき、もう片方はその近くの電柱でその姿を見ていた。

 依頼人から聞いていたマンションの部屋は高く、摩耶のいる場所からではどの角度からも見えない。部屋の照明が点いたこと以外は。


「……ダメだこりゃ、収穫ゼロ」


 摩耶はスマホを取り出し、依頼人である清伍に「お時間は合わせますので、明日もう一度お会い出来ますか?」とメッセージを送り、事務所に帰るため駅へと向かった。


「ホントになーんにもなかったなぁ……」


 一人でぶつぶつと文句を言う姿を晒し、人の少ない夜の車内で少し気味悪がられていた。気味の悪い女は最寄りの駅で降り、1分も歩けば事務所に着く。


 慣れない尾行に体力を使い切った摩耶は、事務所に帰るとソファに倒れ込み、ワンバウンドした。


「あー……お腹空いた。喉も乾いた。トイレも行きたい。風呂も入り……たくはないけど入らなきゃ……」


 実際にはお腹も空いていなければ、別に喉も乾いていない。極度の疲労感がそう感じさせているだけだ。

 本当はトイレには行きたい。でもお風呂に入るのが面倒臭いのは本当である。……いや、この状態の人間にとって、そもそも起きておくという行為が面倒くさいのだ。

 餃子の皮のごとく薄く開いた瞼はゆっくりと事務所の光を遮り、摩耶はそのまま気絶するように眠った。




 そして、午前9時頃。

 窓から差し込む朝日で目が覚める。


「んぁ……サイアク。いたた……」


 お風呂に入ってないことによる不快感、変な体制で長時間眠ったことによる節々の痛みが摩耶を襲う。あと尿意。

 基本インドアな摩耶にとって、長時間の外出というだけでも体力を多く消費する挙句、尾行というのは更にストレスを数倍に増幅させる。

なぜ摩耶はこの依頼を受けたのか。


 よろよろと立ち上がり心と身体をさっぱりさせるべく、シャワーを浴びて、着替えも済ませる。


「ふうぅ、最高。生を実感するぅ」


 高いテンションから意味のわからない独り言を繰り出し、再びソファに座ってスマホを見る。

画面には「佐々木:平日は仕事のため夜まで時間がなく、早くても夜7時頃になってしまいますがよろしいでしょうか?」という依頼者からのメッセージが表示されていた。

 今日は土曜日なのだが、どうやらそんなことなど関係なく仕事らしい。


「7時……大丈夫」


 土曜日は平日という認識の文ですべてを察した摩耶は、メッセージを確認し、集合場所をハンバーガーショップに指定して返信した。


「首も肩も全部キツい。生を実感したばかりなのにもう死を実感する」


 首を回しながら一人でぼやく摩耶だが、今日は酷く散らかった事務所を片付けなければならない。


「ゴミも捨ててないし、食器も洗ってないし……はぁ……」


 今までの人生で1位2位を争うほどの大きなため息をついた。風呂上がりのサッパリした気分は既に消え、ふらふらとゾンビのように立ち上がり、テーブルの上に散乱したゴミを捨てるところから始める。


「……明日じゃダメ?」


 誰もいない空間で誰かに問う。


「ダメに決まってるでしょ。アホか」


 疲れは人から冷静さを奪う。そんなことわかってはいるが、たまには無理をする日もある。

その無理をする日が1日で済むとは限らない。冷静さを奪われた探偵は、今日も働く。自堕落な生活を送っている自分を恨みながら。

佐々木 亜優


若くして大企業に就職し、人生を謳歌している既婚者の女性。現在彼女には不倫疑惑がかかっており、摩耶の調査対象となっている。

とはいえ夫である清伍と仲が悪いわけではないようだ。彼に向けられる彼女の笑顔は果たして……。

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