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un call  作者: 月団子
4/10

Part3 頑張ったんですから

長谷川 伊織


好きなもの

・猫

・甘いもの

・摩耶


嫌いなもの

・勉強


黒崎探偵事務所でアルバイトをしている茶髪でメガネをかけた女子高生。

不定期で摩耶に呼ばれ、依頼解決の手伝いから部屋の片付け、摩耶の世話すら任されることもある。

給与は働きぶりと摩耶の気分により毎回変動するが、長谷川本人はそれを「働きに見合ってない」と言ったり「ルーレットみたいで面白い」と言うこともある。

基本的に摩耶とのやり取りはボケとツッコミが多く、呆れながらツッコみ、実はそれを楽しんでいる。

 9月某日 土曜日。

 新が通う中学校では年に1度の体育祭が行われていた。今年は特に力が入っているようで、種目数は過去最多、各クラスは旗を自作し、保護者席にもかなりの人数が集っていた。

 この学校は全学年2クラスずつ、合計6クラスと他と比べると少し小規模なのだが、今日の熱量は他の学校にも引けを取らない。

 しかしその熱が全ての生徒に伝わっているはずもなく、新た含め何人かがこの大盛り上がりの体育祭に嫌気が差していた。


 自席に座り、他の人が走り帽子を奪い合い奮闘している様を死人のような冷たい目で見る新を保護者席から摩耶はずっと見ていた。


「まるで生気を感じられないね、あの顔」


 ズボラな生活を送っていそうな摩耶だが、いつも事務所を午前9時から開けているため案外朝には強い。


「見てるこっちが不安になるな……ねぇ?」


「私はそもそもその新君がどこに居るのかよく見えないんですけど。というかなんで私がここに呼ばれたんですか?」


「だって聡美さんが仕事で来られないって言うし仕方ないでしょー」


 摩耶の隣に座っているのは聡美ではなく、長谷川だった。前日の深夜に突然摩耶に呼ばれたのだ。


「でも可哀想ですね、聡美さん? も新君の活躍を見たかったでしょうに」


「それはどうだろうね」


「え?」


 思わぬ返答に長谷川は視線を摩耶の方へ向け、聞き返す。


「確かに聡美さんは見たかったかもしれない。けど新もそれを望んでいるとは思えないな」


「なんでです? 自分の晴れ舞台じゃないですか。ここ数日摩耶さんと一緒に走ってたんじゃないですか?」


 摩耶はこの日が来るまで毎日新を訪ね、2人で走る特訓をした。と言っても摩耶は走るコツや呼吸法等をスマホを使いネットで調べ、新が走っている横で声をかけたりアドバイスをしながら自転車を漕いでいただけだが。

 傍から見ればかなり異様な光景だっただろう。


「長谷川はひたすら勉強を頑張ってテストの点数に努力が表れなかったとき、そのテストを親に見せたいと思うか?」


「失敗したらそりゃ見せたくないですけど……新君はまだわからないじゃないですか。頑張ったんですから、もしかしたら一位を……」


「わからないのは私達だからだ。多分だけど、新の中には既にイメージが出来上がってるんだよ……一位以外の未来のイメージがさ」


 摩耶は確かに新に言った、自分自身を信じろと。しかし、人はそう簡単に変われない。


「ちゃんと全力出せるかな」


 摩耶はこの数日間、新の笑顔や走り疲れきった様子、隣で自転車を漕ぐ摩耶に怒る姿などを見てきた。

 新が出場する紅白対抗リレーまではまだ一時間以上あるにもかかわらず、既に摩耶の額には汗が滲んでいる。


「やばい、このままじゃ変な汗で溺れて死ぬかも。今から新の所行って喝入れてこようかな」


「つまみ出されてもいいのなら好きにしてください」


 緊張をしているはずなのにそれを感じられない摩耶の態度に長谷川はため息をつく。


「ホントにいいの?あたしがつまみ出されたら長谷川、知り合いのいない学校の体育祭を1人で見に来てるヤバい奴になるけど」


「その時は他人のふりをして帰ります」


「午前中から張り切ってグラウンドが見やすい位置に居た割にはすぐ帰るJKも充分変だと思うけど」


「あーもうわかりました! せいぜいつまみ出されないようにおとなしくしてて下さい!」


 休日の朝から、日差しが強い中呼び出され、夏の暑さがまだ残るアスファルトの上を歩いてきた長谷川の心を苛立たせるのに、摩耶の態度は充分すぎた。


『只今の勝負は、2組の勝ちです! よって白組には30ポイントが与えられます!』


 2人が関係のない話をしている間に1年生による騎馬戦が終了していた。

 全学年1組が紅組、2組が白組になり、紅白で得点を競い合うというのが今年のルールだ。


「新君のクラスはどっちなんですか?」


「2組。だから少しリードしたね」


 第1種目は白組の得点となり、順調な滑り出しを決めた。

 しかし、新にとってそんなことはどうでもよかった。自分がちゃんと走れるか、良い結果が残せるか、そればかりが頭から離れない。

 今までなら体育祭は苦手なことでもあったと同時に、「どうでもいいこと」だったのだ。たった数日とはいえ、摩耶との特訓の時間は新の体育祭への認識を変えたと同時に、ほんの少しの自信を与えた。

 「負けられない」、けど「絶対的な自信もない」と、新は再び不安に襲われている。


「なあ長谷川」


「なんですか?」


「あたしって……まだ中学生と言って通ると思う? もしイケるなら新のところまで行って喝を……」


「通らないと思います、私も摩耶さんも」


 長谷川の冷たい声に摩耶は何も言わず、再び新の方を見るが、様子は依然として変わらない。摩耶のいる保護者席からでは新の少し伸びた黒い髪であまり顔が見えず、どのような姿勢でいるかぐらいしかわからない。


『只今の勝負は、またまた二組が勝利しました!30ポイントが加算され、紅組を更に引き離しました!』


「なんかノリノリになってんなあの放送担当」


「ですね〜」


 それだけ場が盛り上がってきたということだろう。

 午前に残すプログラムはあとひとつ、新が出場する紅白対抗リレーのみとなった。

 こういった学校行事は昼休みを挟めば疲労で熱が冷めてしまう事が多いため、おそらくここが今日の体育祭で最も盛り上がる場面だろう。


「やってやれーッ!」


「本気で走れよ!」


 学生同士の間で応援が飛び交う中、背中を丸めて歩く新。今世界で一番元気がない人物かのようなオーラを放っている。とても今から体育祭の競技に出場する人の背中とは思えない。


紅白対抗リレーは紅組と白組の1、2、3年生がお互い四人ずつ出場する、紅組6人の2チームと白組6人の2チームで走る競技となっていて、新はその第4走者だ。2年生から3年生へバトンを繋げる大切な役目を「なんで俺が」と嘆き続けていた。

 グラウンドに立ち、周りを見る。

 そこから見えたのは微笑みながら見る先生たち、盛り上がる生徒、そして、自分を見つめる摩耶の顔だった。


 黒崎さんは言っていた。俺は考え過ぎだって。

なんとかなる……なんとかなる……。


 少し震えながらも、顔つきが変わった様子を摩耶は黙って見ていた。

 そこに先程までの新の姿はなく、表情だけではなく、オーラや立ち振舞、全てが違っていた。


「よーい……」


 おもちゃのピストルの音がグラウンドに響くと同時に1年生が一斉に走り出した。

 走者4人全員が譲らない、完全な横並びとまではいかないが、差は殆どない。

 そのまま全てのバトンが第2走者に渡り、盛り上がりは加速する。


 その熱気は新の心をより追い詰める。

 しかしそれでも表情ひとつ変えず、己の順番を待ち続けた。


 バトンは引き続き第三走者へ渡る。

 額と手には汗が滲み、恐怖とは別に緊張感が襲う。沢山の人から視線を向けられる走者を、新もまた見つめている。

 次は自分があの立場になるのだと。


 開始位置に立ち、ゆっくりと手を後ろに伸ばす。

 隣に並ぶ者たち2人がバトンを受け取るのに続き、新も第3走者からバトンを受け取る。

連日続いた練習で少し痛む脚を何度も前へ前へと出す。

 腕を振り、少しずつ息を切らす。

 やがて心も身体も余裕がなくなり、放送席から大音量で流れる実況さえも耳に入らなくなっていった。


 50メートル……40メートル……第五走者の三年生との距離がどんどん近づく。体力の少ない新には限界が訪れていた。

 残り10メートル……5メートルともう目の前というところまで来た、その時だった。


 新は右足を挫いてしまった。

日付跨いでしまってごめんなさい!今週めちゃめちゃに忙しくて書く時間がありませんでした!

つまり誤字確認も何もできていません!ミスがあれは報告お願いします……!


もしよければそれに加えてブックマークが欲しいです、お願いします。本当に。


次回、新はどうなってしまうのか……。

お楽しみに!

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