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un call  作者: 月団子
12/12

Part11 たったひとつの

更新頻度でお察しの方もいるかと思いますが、更新してない期間は合間を縫いながらちまちまと書き続けているので、数字と漢数字が混ざったりしてるかもしれません。(極力統一してるつもりですが、変換ミスなどで……)


というか遅すぎてごめんなさい。

『もしもしー?』


 摩耶のスマホから、弾むような明るい長谷川の声が聞こえた。


「順調に進んでる? もしそうなら予定通りの返事をお願い」


『ごめん、実は迷っちゃってさー。知らない人に声かけたらすっごい優しくてさ、摩耶が教えてくれた公園まで案内してくれるって言ってくれてねー』


「最高の演技だよ神奈川! じゃあそのまま誘導よろしく」


『その優しい人の話はそっちについたらちゃんとするから。それじゃあね』


 そうして長谷川との通話は切れた。というよりも、切られた。


「さすがに演技中はツッコんでくれなかったか」


「神奈川? 演技?」


「あー、簡潔に説明しますと、今あたしの部下と亜優さんが一緒にいるんです。慣れない地で道に迷った……という体で亜優さんに案内していただく演技をさせています。そして、その目的地が……」


 摩耶は人差し指で下をさす。神奈川、もとい自身のボケの解説はさり気なく無視をして。


「えっ、ここに亜優が来るんですか?」


「不倫の真偽も大切ですが、一番大切なのは清伍さん自身が亜優さんと向き合うことです」


「僕が、亜優と……」


「それに、亜優さんはきっと今でも清伍さんのことを深く愛していますよ。誰にも認めてもらえないまま生きて、閉ざされてしまった心をいとも容易く開いたのは他の誰でもない、清伍さんでしょう?」


「ですが……」


「少なくとも清伍さんは亜優さんを愛しているじゃないですか。あたしの言葉が信じられなくとも、愛する人のことぐらいはしんじてあげてもいいんじゃないですか?」


 摩耶はそう言って清伍に微笑みかけた。


「黒崎さん……」


「では、一旦私は席を外しますね。やるべきことがありますので」


 両手を両膝に置き、立ち上がる。


「まだ何か僕の知らない計画が?」


「いえ、ちょっとお手洗いに」


「……確かにやるべきことですけど、なぜわざわざそんな言い回しを」


「緊張を解す為の小ボケですよ」


 そう言って摩耶は公園を出ると、すぐ左側にあるコンビニへ歩いていった。


 摩耶が居なくなり静かになった公園で聞こえるのは、公園の隣にある小さな駅に電車が停車、通過する音。そして、そこから少し離れた国道を走る車の音だけだった。

 そんな空間の中に1人残された清伍は、亜優との記憶を思い出していた。




「僕と結婚してください」


 それは、見栄を張って慣れない高級レストランへ亜優を招待し、小さなダイヤが輝く結婚指輪と共にプロポーズをしたときの記憶。

 計画中も、食事中も、愛を言葉にする前もした後も、高鳴る鼓動は収まらない。ほんの数分数秒が、何時間にも思えた。


「こんな私でよければ……喜んで」


 亜優は瞳を潤わせ、満面の笑みを浮かべながら、掠れかけた声でそう言った。

 永遠の愛を誓い合ったその瞬間は、間違いなく2人にとって最上の幸せだった。


 そしてプロポーズの後、ビルや様々な店から溢れる灯りに照らされた街を、2人手を繋ぎながら歩いたときの記憶も蘇る。


「あの、清伍」


「どうしたの?」


「今日のこと、私たち二人だけの思い出にしたいって言ったら……駄目かな?」


「二人だけの?」


「うん。私は清伍にこんなプロポーズしてもらったって誰にも言わない、知り合いや親に話したりとか。だから清伍もその話を誰にもしないでほしいなって……駄目、かな?」


 清伍は亜優の方を見るが、恥ずかしがっているのか、亜優は清伍のことを見ようとしない。それどころか目を逸らし、手を握る力がほんの少し強くなる。


「いいねそれ。僕たちだけが知る、僕たちだけの思い出だ」


 そう返し、微笑みかけた。


「……うんっ!」


 誰かの前では完璧な人を演じようとしながら、自身が思う完璧には遠く及ばず苦しい思いをし続けた亜優にとって、清伍の隣だけが唯一等身大の自分でいられる場所だった。




 ……しかし今もそうだろうか、と清伍は1人疑問に思う。


「すみません黒崎さん。約束……なので」


 摩耶に過去を訊かれた際に全て語らなかったことに対する謝罪を、誰にも聞こえないほど小さな声で、そう呟いた。

 今も愛があるかなどわからない。夫だろうが探偵だろうが。本当の答えは亜優の中のみにあるのだから。


「まだ、好きだといいな……」


 感情の行き場が無いせいか、柄にもなく独り言を続けて吐く。それは誰にも聞かれたくない、誰に向けられた訳でもない言葉だった。


「あーここです! この公園です!」


 その直後のことだった。公園の外から女性の声がし、清伍は不意にその方を向く。

 顔はハッキリとは見えないが、そこにあったのは間違いなく亜優……と、清伍にとっては見知らぬ少女、長谷川の姿だった。2人は公園の入り口で立ち止まり、少女が亜優に頭を下げていた。


「ここまで来ればあとはわかります。お姉さん、ありがとうございました! この御恩は一生忘れません!」


「そんな大袈裟な。気にしないで下さい、長谷川さんが無事ここへ辿り着けてよかったです」


 そう言って亜優は長谷川ににこりと笑顔を見せた。

 清伍にその様子は見えなかったが、ここが静かな郊外であるおかげで微かに聞こえる2人の会話に耳を傾ける、状況を大雑把に把握する。


「本当に本当に、ありがとうございました! それでは、私はこれで!」


 長谷川はもう一度深々と礼をし、仄暗い住宅街へと歩いて行った。

 亜優は数秒ほどその背中を見つめ、振り返って公園前を離れようとする。


「亜優!」


 突然名前を呼ばれ、慌てて周囲を見回す。すると公園の入り口にスーツ姿の清伍の姿があった。


「清伍? なんでこんなところに……」


「仕事の後ちょっと用事があったからだよ。亜優こそ、なんでここに?」


「迷ってる人がいたから道案内してあげて、その目的地がこの公園だったから……」


「じゃなくって、何をしに出かけてたの?」


 そう言われた瞬間、亜優は咄嗟に目を泳がせる。


「大した用じゃないよ」


「それって、どんな用?」


「……お買い物」


 弱気な亜優に対し、極力柔らかく質問をする清伍。

 そして摩耶はその様子を、コンビニの中で雑誌を読むフリをしながら観察していた。その隣には、摩耶と同じように漫画本を眺めるフリをした長谷川の姿があった。住宅街へ行ったように見せかけ、少し遠回りをしてコンビニへ入り、摩耶と合流していたのだ。


「なんか、2人とも全然動きませんね」


 摩耶と長谷川には口が動いていることだけがぼんやりと見えていた。というよりも、それしか把握できない。


「そういえば計画のうちに清伍さんと事前に通話を繋いでおいて2人の話を聞く……ってやつありましたよね。スマホ出しましょうよ」


「ああ、それなら……」


 摩耶がポケットからスマホを取り出し、長谷川に画面を見せる……が、そこに写っていたのは、反射された長谷川の顔だけだった。


「繋げるの忘れてた。というかその説明すらし忘れた」


 長谷川は何も言わないまま、視線を清伍と亜優へ戻す。


「でもまぁ、きっと大丈夫だよ。私たちは話し合うキッカケを作った……それだけで、大丈夫」


 そんな摩耶の言葉を嘘にするように、現場には張り詰めた空気が漂っていた。上手く言葉を選び穏便に事を進めたい清伍と、何かを隠し通したまま早くこの場を終えようとしたがる亜優。


「亜優さん、めちゃめちゃ挙動不審ですよ。本当に大丈夫なんですかあの2人」


「典型的な嘘が吐けないタイプだね」


「って、それじゃあ結局亜優さんが不倫を隠してるってことになっちゃいませんか?」


「尾行と接触のついでに、考察に使えそうな写真でも撮って来てくれてたら判断できたかもね。そういう細かい行動に本職とアルバイトの差が……」


「でも摩耶さんもこないだ1枚も写真撮ってなかったじゃないですか」


 摩耶の視線は既に長谷川から逸れ、亜優と清伍の方を向いていた。


「典型的な都合が悪くなるとだんまりを決め込むタイプだ……」


 摩耶たちがくだらない会話をしている間に、清伍たちの話も少しずつ進んでいた。


「買い物って、何を?」


「えっと……アクセサリー」


「ははーん」


「な、なに?」


「“可愛いアクセサリーが欲しいけど勝手に高いものを買って僕に叱られるのが怖かった”、かな?」


 清伍は自信満々で亜優に歩み寄り、ニヤニヤとした表情で亜優の顔を見つめる。


「ううん、違う」


「えっ。あ、ああ、そうなんだ、違ったんだ。あはは」


 目も合わないままか細い声でそう返された清伍は、思わず乾いた笑いを張り付かせる。


「にしても、亜優がアクセサリーを買うなんて珍しいね。普段はネックレスもブレスレットも、何も着けないのに」


「ちょっと事情があって……」


 嘘を吐けない亜優の性格を利用し、清伍は真実へ辿り着こうとする。それに気づく気配すらない亜優に少し罪悪感を覚えながら。


「その事情は聞いちゃ駄目かな?」


「駄目……じゃない、けど……」


 そう言った直後に亜優の瞳から、街灯に照らされ白く輝く涙が1滴、頬を伝う。


「ご、ごめんっ! 僕が色々言ったから……」


「ううん、違う。清伍は悪くないの……私の、せいで……。私が清伍を……裏切っちゃった……」


 掠れた声でそう言いながら亜優は両手で顔を覆い、指の隙間や手のひらから溢れるほどの涙を流す。


「裏切った? 泣いてちゃ何も分からないよ」


 幼い子どもを慰めるように、亜優を抱き寄せる。


「ゆっくりでいいから、怒らないから、何があったか言ってみて?」


 亜優はその言葉に反応する素振りも見せないまま、自身の袖や清伍のスーツを濡らす。泣きじゃくり呼吸を乱している亜優を落ち着かせるように、清伍は左手で亜優を抱き寄せ、徐に右手で頭を撫で始めた。


「う……ぐすっ……」


 その甲斐あってか、亜優は次第に落ち着きを取り戻し始める。それでも溢れ出そうになる涙を堪えながら、亜優は小さく口を開けて声を出した。


「……あのね」


「うん」


「私……さ……」


「うん」


「清伍がくれた結婚指輪、失くしちゃった……」


「……うん」


 清伍は態度を変えず、亜優の頭を撫で続ける。


「この世界でたったひとつの指輪。清伍の愛の証。私たちだけの大切な思い出。なのに、それを私は……」


 亜優は再び手のひらを濡らす。


「僕にとって、確かに思い出も指輪も大切なものだよ」


「本当にごめんなさ……」


「でも、僕にとって何よりも大切なのは亜優自身だ。亜優が僕の隣で笑っていてくれるのなら、指輪なんて無くたっていい。そんなもの無くたって、僕の亜優への愛は変わらないよ」


「ぐすっ……うん……」


 ずっと心をどこかに置いてきたかのような態度だった亜優が、久しぶりに見せた素の自分。それは決してプラスの感情では無かったが、誰の顔を色を伺うわけでもなく自身の感情を顕にするその姿を見れたことが、清伍は嬉しかった。


「清伍……」


「なに?」


「ありがとう……」


「うん」


 呼吸を乱していた亜優は、清伍の腕の中で次第に落ち着きを取り戻していく。

 涙が止まった頃、亜優は徐に両腕を清伍の背へ回そうとすると、再び雫が亜優の手へ当たる。それに続き、清伍の頭にも雫が。


「ん、雨?」


 二人が空を見上げると、今度は清伍の右の頬が濡らされた。


「とりあえずそこに入ろう」


 清伍は涙で濡れた亜優の手を握り、すぐ側の駅まで歩き、雨宿りをすることにした。

 賑やかな都会からほんの1キロほど離れた場所だというのに、時代に取り残されたかのようなその駅には、常に閉められたシャッターやいつからあるかも分からない落書きがあった。


「今日雨予報なんてあったっけ?」


「どうだったかな……天気を気にしてられるほど心に余裕が無かったから」


「あはは……それは僕も同じ」


 こうしてまともに会話を交わすのは数週間ぶりのことで、上手く言葉が出てこないまま数分が過ぎた。次第に雨は強くなり、アスファルトの上には水が溜まり始めていた。


「そういえば、今日はなんで出かけてたの?」


「あっ、うん。えっと……」


 清伍の質問に言葉を詰まらせる。


「言いづらい?」


「ううん。あの、指輪を探しに……」


「落とした指輪を? さすがにそれは見つからな……」


「ううん、同じものを私のお金で買えないかなって、お店を探し回ってた……失くしたことを清伍に知られるのが怖かったから。ネットを見ても同じものは見つからないし、この辺りのお店なら見つかるかと思って……」


「ぷっ……はははっ」


「な、なんで笑うのっ」


「その行動力があるなら、一言失くしちゃったって言ってくれたらすぐ済んだのにって思ってさ」


「そうだけど、それは結果論だもん」


「まあね。これも1つの思い出だよ」


「思い出したくないよ、申し訳なさで潰れちゃう……」


「ごめんごめん」


 視線を下げる亜優の頭を清伍は優しくひと撫でする。


「それにしても止みそうに無いね、雨」


「天気予報はどうなってるんだろ」


 亜優は左肩にかけた鞄からスマホを取り出し、天気予報アプリを開いた。それを横から清伍が覗き込む。


「雨、雨、雨、雨……」


 1時間後、数時間後、明日になっても、並んでいたのは開いた傘のマークばかりだった。

 どうしようかと言わんばかりの表情で、ふたりは顔を見合わせた。


「お困りのご様子ですね」


 突如雨音の中から聞こえた女声が聞こえ、ふたりは同時にその方を向く。

 

「この空から降る雨と、涙という心の雨……その両方を防ぐことができる魔法の傘はご入用ですか?」


 そこに立っていたのは、右手に持った傘をさし、左手に閉じた傘を持つ怪しい女性。彼女の顔は傘のせいで顔がよくは見えない……が、その手で持った半透明のビニール傘ではうまく隠せず、暗色の髪も着用しているジャケットもぼんやりと見えている。


「摩耶さん、ふたり共泣いてないです」


「えっ」


「あと傘をもう少しこっちに傾けてください、私の背中が雨という名の涙に濡れています」


「待って待って、顔見えるから」


「もうバレてるんですから見えてもいいでしょう!」


「こだわりこだわり」


「要りませんから!」


 女性の後ろから伸びてきた手が傘の角度を無理やり変えると、現れたのは摩耶とその後ろに立つ長谷川だった。


「そもそも前後で相合傘するとかあり得ないですから。もう横に立ちますよ」


 摩耶の横に並んだ長谷川が、再び傘の位置を直し、ようやく濡れずに済むと安堵の表情を浮かべる。


「長谷川さん……と、そちらの方は?」


「えっと、傘ウーマンです」


「か、傘ウーマン?」


「傘ウーマンです。雨に困る人たちに傘を届けるウーマンです。傘マンの方が語感がいいですけど、あいにく私は女なので」


「なる……ほど……?」


「真面目にこの人の相手しなくていいですから、とりあえずこの傘貰っちゃってください」


 摩耶の手にある閉じた傘を奪い取り、亜優に差し出す。


「でも、これを貰っちゃったら長谷川さんが困るんじゃ……」


「いいんですいいんです、この傘ウーマンが家まで送ってくれますから」


 遠慮する亜優の手を取り、無理やり柄を握らせた。


「そんな約束した覚え無ッ……」


 長谷川はとてつもないスピードで摩耶の口を手で塞ぐ。


「それじゃあ、私たちはこれでー……」


 口を塞ぐ者と塞がれた者は清伍の隣を横切り、そのままの状態で駅の中の階段を上っていった。


「何だったんだろうあの人たち……」


「まあ、傘も手に入ったことだし、僕たちも帰ろうか」


 清伍がそう言った瞬間、電車がこちらへ近づく音が聞こえてくる。


「今から階段駆け上っても間に合いそうにないね」


「次の電車でいいよ。ゆっくり帰ろ」


 亜優が清伍の腕に優しくしがみつく。少し上から見える亜優の頬はまだ赤く染められたままだったが、頬を伝う雫はもう無かった。

 電車を見送ったふたりは、もうしばらく駅のホームで話し合った。最も近い祝日のことや、普段の仕事のこと……他愛のない話をした。


 同時刻、ふたりの時間を邪魔する訳にはいかないと思い摩耶を連れてその場を離れた長谷川は、その電車に乗っており、座っていた。車内の床は所々湿っており、畳んだ傘を手に持つ者が多くいた。

 ゆっくりと動き出した電車の中で、摩耶もビニール傘を畳む。


「それにしても、何なんですか傘ウーマンって」


「あたしが探偵だってバレたら、清伍さんが疑いを持ってたこともバレるでしょ。だから身分隠したの」


「なるほど、くだらないボケではなくちゃんと考えがあったんですね。ネーミングセンスはともかく」


「あーもういいから、わかったから、送るから、家まで。だからこれ以上蒸し返さないで」


「はぁーい」


 誰かにとって憂鬱な夜は、また他の誰かにとっては幸せな夜かもしれない。

 誰かにとって煩わしい雨は、また他の誰かにとっては愛する者と同じ傘の下で歩く口実となるかもしれない。


 しかし、幸福や愛の形は人それぞれだ。

 夫婦で1つの指輪にふたり分の愛を込めることも、仕事終わりに部下に失言をイジられるいつも通りの日々を過ごすこともまた、幸せの形なのだから。

毎週発売するジャンプとかも凄いと思うんですけど、なろうで毎日更新されてる方とかってどんな生活してるんでしょうか?

仕事や学校以外の時間はほとんど執筆に割り当てられてるんですかね。悪党の歪んだ欲望を盗んだり超次元サッカーに興じたりしないんですかね。

ゲームに人生を吸われています。SOS

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