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un call  作者: 月団子
10/11

Part9 似たもの同士

今回は1年空けずに投稿できました!(当たり前)


詰め込みすぎると時間がかかったり、かえってスランプに陥るので最近は気軽に書いてなるべく早く更新を目指してますが、それでも遅くなりますし、投稿した後から「やっぱこうすればよかった」とか思っちゃうんですよね。


まあ後悔と言いつつもめちゃめちゃゲームしてるんですけどね。

 強い日差しが降り注ぐ夏の暑い日。

 そこかしこで熱中症への注意喚起が行われており、ネットやテレビはもちろん、町中にもポスターが貼られている。


 このとき大学生になっていた亜優は、カラカラの喉を潤そうとキャンパスの屋外にある自動販売機で冷たい飲み物を買おうと、廊下を歩いていた。


 この廊下は屋根があるだけで屋外なため冷房が効いていない。しかし、亜優がいた場所から最も近い自動販売機が外にしかなく、その販売機の側面がもうすぐそこに見えている。


 正面へ回り込むと、何を買うか悩んでいる男子生徒が商品を見ていた。


「僕まだ決まってないので、お先にどうぞ」


 男性は微笑みながら、汗に濡れた亜優にそう言った。亜優はぺこりと小さく頭を下げる。


 とりあえず冷たいものが飲めることができればよかった亜優は、150円と書かれた水の存在を確認したあと、ポケットから財布を取り出して小銭入れを開く。


 そこに入っていたのは10円玉が3枚、1円玉が2枚だけだった。

 次にお札を確認するが、入っていたのは1万円札が1枚だけだった。


 2秒ほど財布とにらめっこをしたあと、財布を静かに閉じた。


「あの、買えなかったのでどうぞ……」


「お金足りませんでした?」


「あ、いえ、1万円札しか無かったので」


「なるほど、そういうことでしたか。1本ぐらいなら、僕が奢りますよ?」


 男性は微笑んで言う。


「えっ、でも……」


「気にしないでください。何にします?」


 そう言いながら男性は自動販売機の中に並ぶ商品を流し見する。


「じゃ、じゃあ……」




 数分後、ふたりは食堂窓際のカウンター席に座っていた。亜優はペットボトルに入った水を勢いよく、男性は缶に入ったコーラをゆっくりと飲む。

 ペットボトルから口を離すと、思わず「ふぅ」と言う声が漏れた。


「本当にありがとうございました」


「大丈夫ですよ。気にしないでください」


 男性はそう言うと再び唇に缶を当てる。


「あの、お金は後日返しますので、連絡先を教えて頂けませんか?」


 亜優はそう言いながら膝の上においてあるトートバッグの中にあるスマホを探す。


「いえいえ、ほんとに大丈夫ですから!」


「返させてください。私の気が済まないので」


「……わかりました、そこまで言うのなら」


 亜優は取り出した自身のスマホの画面を男性に向けて差し出した。そこにはLINEの友達登録用のQRコードが映っており、男性はそれを読み込んだ。

 表示されたのは《あゆ》という名前と、ケーキの画像のアイコン、そしてピンク色のデフォルトの壁紙だった。


「追加しましたよ」


 そう言われ自分のスマホの画面を見ると、表示されていたのは《佐々木 清伍》という名前と、オカメインコのアイコン、そしてどこかで撮ったであろう田舎の景色の壁紙だった。

 その画面の左下にある登録ボタンを押す。


「私も追加できました」


「おぉ、ありがとうございます」


 なんでこの人が礼を言うのだろう……と亜優は思った。


「あゆ、さん……って真面目なんですね」


「えっ」


「いやぁ、130円ぐらい別にわざわざ返さなくてもよかったのにと思いまして。お金の管理をしっかりしていて、偉いと思います」


「……私の気が済まないだけです。ごめんなさい、強引で。迷惑でしたらいつでもブロックしてください」


「いやいや、褒めてるんですって」


「あ……そうですね……すみません」


 他人なんて信じるだけ無駄だ。

 私に向けられるのは、お世辞の言葉か侮蔑の目ぐらい。

 どれだけ頑張っても空回りしかしなくて、不器用にしか生きられなくて、誰の側にもいられなくなる。


 家族、友達、恋人だろうが、私の本質を知れば知るほど私から離れていく。

 だから、誰も私を知らなくていい。

 通学中の子供に蹴られて見知らぬ場所へと運ばれる道端の小石のように、誰に覚えられることも無く、ただ流されるだけの人生でいい。


 そうは思いつつも、たった130円のお金は返さないと気が済まない亜優。自分のせいで他人が損をしたという事実が耐えられないのだ。


 そして次に、自分のせいで会話が弾まなくなってしまったことに耐えられなくなり、無理やり話題を作り出す。


「あ、あの、コーラお好きなんですか?」


「そうですねぇ、結構ジャンクなものが好きで。ポテトチップスとか、チーズバーガーとか」


「チーズバーガーってジャンクなんですか?」


 亜優の言葉を聞いて、清伍は絶句する。

 言葉こそ発さないものの、「マジですか」と言わんばかりの表情だった。


「すみません、食べたことがなくて……」


「謝る必要はないですけど、ちょっと珍しいなと思いまして。もし良かったら今度食べに行ってみますか?」


 清伍のフットワークの軽さにたじろぐ亜優。

しかし、楽しそうに話す清伍を見た上で誘いを断るような勇気は持ち合わせていなかった。


「わ、私がいてもいいんですか……?」


「いやいや、亜優さんがいなかったらそれ僕がひとりでバーガー食べるだけじゃないですかっ」


 清伍の軽いツッコミに亜優はクスッと笑う。が、その直後に咳払いをし、スンッと真顔に戻る。


 しかしその一瞬の笑顔を見逃さなかった清伍は言葉にこそ出さなかったが、ようやく笑ったと内心喜んでいた。


「明日のお昼とか、どうですか?」


「1時まで講義があるので、その後でよければ……」


「よしっ、決まりですね」


 清伍の提案で話はトントン拍子で進んでいく。

 正直、亜優は知り合ったばかりの人と食事に行くなんて怖かったのだが、意地でもお金を返したいという自分のわがままを聞いてもらっている手前、断ることができなかった。


 だけどこの1回の食事で私への興味なんて無くなるだろう、互いの望みを叶えた上で別れられるのなら……と思い、清伍の提案を聞き入れたのだ。


「うわーもうこんな時間。ごめんなさい僕もう行きます!」


「あっ、はい。またあし……た……」


 亜優が言い終わる頃には清伍はすでに走り去っていた。


「棒読み……」


 逃げるように消えていった清伍の最後の言葉を思い出しながら亜優が呟く。


 慌ててこの場を離れる理由はなんだろう……そんな疑問が頭に浮かぶが、それを知っだからといってどうということはないと思い、亜優は考えるのをやめて少し残っていた水を飲み干した。


 照りつける太陽は、熱く眩しい。

日向を歩いているときに、特にそれを実感する。草木が燃えてしまうのではないかと思うほどに。

 ……勿論、そんなことはないのだが。


 そんな外へ出るのが億劫で、トートバッグを膝の上に置いたままぼーっと座ったまま亜優は動かない。

 この冷房の効いた広い空間の壁際に座り、ガラス越しに暖かな陽の光を浴びるという行為が、何ものにも代えがたい快楽だったからだ。


 もう少しだけ、涼しくなったら帰ろう……そんなことを考えながら亜優はスマホにイヤホンを繋げ、耳へ填めて曲を流した。


 しかし流れている曲の歌詞は全く頭へ入らず、ただ流れているだけだった。

 この空間でリラックスしながら、何も考えていないようで、ずっと何かを考えていた。考える必要のないなにかを考え続けていた。


 押し付けられた期待。


 誰かに浴びせられた心ない言葉。


 交わしてしまった約束。


 私は……どうすればよかったのだろう。

 誰とも関わらずに生きたい。だけど誰かは私を認めてくれたらいいのに……そんな身勝手な願いも捨てられない。

 もう全部投げ出してずっとここに座っていた方が幸せなんじゃないか、約束なんて今からでも断ってしまおうかとも考えた。


 そんな時、スマホから通知音が鳴った。

 その音で亜優は我に返り、バッグに入ったスマホを右手で取り出す。


「明日楽しみにしてます!」


 それは清伍から届いたLINEだった。

 さっき別れたばかりなのに……と思いつつ、


「私もです」


 と返し、スマホをバッグの中に戻す。

 ふと視線をペットボトルに向けると、外から入り込んだ光が中に僅かに残った水滴を輝かせていた。亜優はそれもバッグに入れ、立ち上がる。

 たとえ暑くても歩いている方がこのまま座っているよりも気が紛れると思い、帰ることにしたのだ。


 学食の外に出ると、日陰でも既に暑い。額を流れる汗が、外に出るなと警告しているようだった。


 現在亜優は実家を出て学生寮で独り暮らししており、ここから家まではそう遠くない。

 数分も歩けば冷房の効いた部屋でベッドに寝転がることができる。

 ただ、本当に今自分がそうしたいのかどうかが、亜優自身にもわからなかった。それでも身体は本能的にこの暑さへ拒否反応を示し、足は自然と学生寮の方へと向かっていた。


 暑い暑いと気温のことばかりに意識が奪われている内に、亜優はいつの間にかもう女子寮に着いていた。

 嬉しいような、悲しいような、そんな気分だった。


 無心で階段を登り、鍵を開けて中へ入る。短い廊下を抜け、部屋の壁際にバッグを静かに置いて、その隣にぺたんと座る……が、即座に立ち上がると、机の上に乗ったエアコンのリモコンで電源を入れる。

 短い電子音のあとリモコンを元の位置へ置き、再びバッグの右隣に座る。


「はぁ……」


 思わずため息が漏れると、バッグの中から別の電子音が亜優の耳に入る。スマホの通知音だ。

 亜優は左手をバッグの中へ突っ込み、目視せず手当り次第探す。指先に触れた硬い端末を掴んで取り出した。


「よかったー! 僕も楽しみにしています!」


「突然お誘いしてしまったので、断れなかったんじゃないかとか思っちゃいまして」


「本当に大丈夫ですか? 面倒だとかいきなり食事なんて怖いとか思ったら全然言ってくださいね!」


 先程のメッセージに対する返信を含め、3件の連絡が立て続けに届いた。


「心配性……ちょっと面白い。でも……」


 何かに怯えている。

 突然誘って申し訳なく思っているのも事実だろうけど、何故かこの文章からは“嫌われたくない″という意思を感じた。

 それなのに自分から食事に誘うのは、譲れない理由が清伍さんにもあるのかな……私がどうしてもお金を返したかったように。


「大丈夫ですよ」


「本当に楽しみにしてますから、安心してください」


 と亜優は返した。

 そのメッセージはすぐに既読が付き、再びメッセージが届く。


「何度も聞いてしまってごめんなさい、心配性なもので……」


「気にしないで下さい」


「ありがとうございます」


「こちらこそ、誘っていただいてありがとうございます」


 ふと思った。

 なんで私なんだろう、と。

 ハンバーガーなんて他の誰かとでも食べられるし、なんなら一人でも食べられる。私が食べたことないからとはいえ、普通なら「気が向いたら食べてみてください」で済む話なのに。

 私に比べて清伍さんのフットワークが異常なまでに軽いのかな。そうだったらいいんだけど、どさくさに紛れて身体目的で、とかじゃなかったらいいな……。


 そして、再び通知音が鳴る。


「あと、今日は突然帰ってしまってごめんなさい」


 そういえば、棒読みで走り去って行ったっけ。


「女性と話すことなんて殆どなかったので緊張してしまって…失礼でしたよね」


 緊張……か。

 必要以上に遠慮するのも、比較的丁寧な物言いも、ただ会話しているだけで緊張するのも、やっぱりこの人の根底には″嫌われたくない″という気持ちがある。

 だけど、多分人と関わること自体は好きなんだろうなって、そんな気がする。わからないけど。


 ってことは、私と同じ……なのかな。

 この人は、私を知ったらどう思うのだろう。私みたいに似たもの同士だと思うのかな。それとも、やっぱり嫌われてしまうのかな。


「ごめんなさい、返事に困りますよね」


「後ろ向きの話は終いにします!」


「それではまた明日!(返信不要です)」


 亜優が思考を巡らせているうちに、いつの間にか会話は清伍によって終わらせられていた。


 私のせいですごく気を遣わせてしまっているかな、謝るべきかな。けど返信不要と書かれたメッセージに返信するのも……。


 駄目だ、疲れた。考えたくない。


 亜優は突如限界を迎えた。考えることが面倒になったのだ。なるようになる、明日まで考えるのはやめようと、スマホの画面を閉じて床に起き、亜優自身もまた腕を枕にして床に寝転がった。

 そしてゆっくりと目を閉じると、ものの数分で深い眠りへと落ちていった。

本当はもう少し書く予定だったのですが、ちょっとキリがよかったので今回はここまでです。

Part10は本来Part9に入れるはずだったものを詰め込むので、少し短くなるかもしれません。その分投稿が早い(かもしれない)と考えていただければ幸いです!


少しずつ書き進めていきますので、しばしお待ち下さい。

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