シェリーの場合③ 恋人の浮気相手は私
ーー居た……!
恋人のカイルがよく行く酒場へと来たシェリーがさっそく彼の姿を見つけた。
いつもは騎士仲間と来るが、たまに一人でも店を訪れるのだとカイルは言っていた。
運良く今日は一人だ。
カウンターで酒を呑んでいるカイルの元へと歩いて行く。
途中数人の男に声を掛けられるが全てスルーして脇目も振らずにカウンターへと向かった。
そしてカイルの隣に座り、酒を注文する。
「マスター、水割りを」
無口な性質のこの店のマスターが軽く会釈をし、シェリーの前に水割りのグラスを差し出した。
シェリーはそれを口に含む。
景気付けの一杯である。
先ほどから隣のカイルの視線を感じる。
シェリーにとっては馴染みの視線だが、今別人となっている自分にそれを向けられているのかと思うとあまり良い気分ではない。
仕掛けるか。
シェリーはそう覚悟を決めた。
そして隣のカイルにわざとらしく微笑む。
「……私の顔に何かついてる?」
不躾に視線を送られている事への抗議のように言うと、
カイルはシェリーの顔を見て薄く笑い返事をした。
「………いいや?綺麗な人だなと思って見てたんだ」
「……あら、嬉しい事を言ってくれるのね。私みたいな女が好きなの?」
「キミのような綺麗な女性なら、男はみんな好きだと思うよ」
ーーリップサービスときたもんだ!!
「マスター……お代わりを頂戴、今度はロックで」
「マスター、彼女の酒代は俺にツケてくれ」
ーーなぬっ!?今会ったばかりの女に奢ってやるのっ!?そんなの下心丸見えじゃないっ!!
直ぐに出されたグラスをシェリーは腹いせに一気に煽った。
晒された喉元をカイルが見ているのを感じる。
ーーくっ……奢りというなら、どんどん呑んでやる!
「いい呑みっぷりだな」
面白そうに言うカイルにシェリーは笑みを返した。
「ええ。今日は呑みたい気分なの。……ねぇ、どこか個室で…二人だけで呑まない?」
シェリーがそう告げると、カイルは一瞬何やら考えるような仕草をし、悪戯っぽい表情を浮かべた。
「ああ、そういう感じでいくんだな。もちろんいいよ。俺の部屋で飲み直そう」
ーーかかった……!
……かかってしまった……。
今会ったばかりの女を……簡単に部屋に呼ぶなんて。
私だけど私でない女を……!
怒りと悲しみで感情が乱れたからだろうか、
シェリーの酒の回りはいつもより早かった。
その酒の所為でヤケクソ感が助長されたのもあるだろう、
シェリーは連れて行かれたカイルの部屋でも酒を煽って乱れ、そしてそのままカイルに抱かれた。
夢とも現実ともつかない感覚の中で手慣れた感じにシェリーの体を攻めたてるカイルが悔しくて悲しくて。
行為の最中、カイルが何か言っているのが聞こえたが、それを言葉として意味を理解する余裕がない。
涙が目尻から零れ落ちてゆくのを感じながら、シェリーは意識を手放した。
そしてまだ仄暗い部屋の中でシェリーは一人目を覚ます。
何度も訪れ、何度もこうして抱かれたベッドの上でこんな最低な気分で目覚める事になるなんて……。
頭は痛いし心も痛い。
酒に酔っていたせいか一度しかシていないので体は動かせるが気分は最悪だった。
隣を見ればすやすやと安らかな寝顔で眠る愛しい筈の恋人がいる。
安心し切った顔で眠るその姿に虚しさを感じた。
ーー私の前だからそんな無防備な寝顔を晒してくれるんだと思っていたのに。
他の女と寝てもそれは変わらないのだと知ってしまった。
「う……ん……」
カイルが身動いで寝返りをうつ、
その時「シェリー……」と自分の名を呟いたのが聞こえた。
ーー私だけど私でない他の女を抱いて私の名を口にするのね……。
当初の予定なら、もし他の女の姿でカイルに抱かれたらその場で種明かしをして別れ話をしようと思っていた。
騙し討ちをするような真似をした事を詫びた上で、他の女と簡単に関係を持つような人とはもう一緒に居られないと言うつもりだった。
だけど今のシェリーにはそれが出来そうにもない。
心の中が空っぽで。
悲しみや怒りや悔しさや虚しさでいっぱいな筈なのに何故か虚無で……。
涙どころか声さえも出ない、そんな状態だった。
シェリーはそっとベッドから抜け出した。
ゆっくりと脱ぎ散らかした服を着て、最後にカイルの寝顔をもう一度見た。
このまま何も言わずに去ろう。
今はそれが精一杯。
そしてシェリーはカイルの部屋を後にした。




