本当に伝えたい気持ちは桜の木の下で
とある探偵事務所で、俺はタバコをふかしていた。窓からは見える景色には桜が見えていて満開だ。ここは探偵事務所で、俺は堂好ミツル。探偵事務所というだけあって探偵を生業とし日々仕事をこなしていた。黒髪にスーツといういかにも探偵という風貌だが年がいっていて相当な年齢なため顎髭を蓄えている。仕事と言っても猫探しや恋愛相談といったものばかりだが、探偵という性質上、そのうちすごい事件が舞い込んでくるのではないかと期待を寄せているがそのような依頼はない。
「ふー、今日も暇だなあ」
そういいながら俺は暇そうにしているとカランカランと扉が開きベルの音が聞こえてきた。やってきたのは20代ぐらいの男で、ヒョロヒョロとした体型だ。その男は、一度小さくお辞儀をすると、持っていた白いカバンをゴソゴソと探り出し、客席も赤いソファに座ると1枚の紙を取り出した。A4ほどの紙でそこには何か書いてある。そしてその紙と共に依頼者はこう言い出した。
「これを解いてほしいんです」
突然やってきて何を言い出すのだろうと思いながらも謎解きのようなものを持って来た依頼者にワクワクしながらその紙を見た。そこにはこのように書かれていた。
『あなたに伝えたい気持ちがあります。あの思い出の木の下で待ってます』
何やら謎解きのような文章で俺はその文字が書かれた紙を眺める。一体誰が何のために...というのはまあ大体察しがつく。こういうのはその場所に行くとその人がいて、告白とかを....と妄想が捗ってしまう。こんな探偵がやってそうなロマンチックな依頼を受けないわけにはいかない。
「えーっと、あなたは」
「僕は成屋京って言います。会社員をしてます。それで、この紙の謎を解いて欲しくて...」
「で、この紙はどこで見つけたものですか??」
「えーっと....ポストに入っていたんです。何だか怖くて...」
怖がることなどないだろう。おそらく告白されるのだから。だが思い出の木の下....というのはなかなかにアバウトだな。こういうのって学生の時に咲いていた大きな桜の木とかなのだろうな。それならば、その場所を突き止めてハッピーエンドにするしかない。そのような期待を込めて俺は色々と質問してみた。
「学生とかの頃に...ありませんでした?大きな木とかそういの」
「いえ...」
「例えばその木が思い出になったなーとか」
「全然」
「何か無いんですか?」
「と言われましても...だからもしかしたら暗号かも??と思いまして
まあ、そもそも心当たりがあったら、ここに来ずにその場所に直接行くか...。だが心当たりがないと難問だ。どうにかして思い出して貰わないと。だが、そうはいっても思い出せるものではないだろう。うーんと首を捻っていると依頼主が何かを思い出したのか、「あ!」という声を発する。
「何かわかりました??」
「家の鍵閉めましたっけ」
「はあ...」
なかなか進展しなさそうだ。俺はタバコをもう一本出して火をつける。これが暗号...確かに身に覚えのないならそうも取れる。だが、なんというか暗号とかそういうような難しいものではないような気がする。もっと単純な...。
「本当に覚えてらっしゃらないんですか?例えばそうだな...あの頃はーみたいな感じの」
「いえ、全然」
「そういえば、外の桜の木見ました?
まるで、何だか好きで待っているかのようですよね」
「あ!!!」
突然依頼者の京さんは大きな声を出す。そして慌てて紙を持って外に出ようとする。どうやら思い出したようで俺は「送りますよ」とにこやかに言った。
そこは大きな学校。その学校の横には大きな桜の木がそびえ立っていてとても綺麗だ。何だか進入するのは忍びないが、ひょいと簡単に乗り越えられ中へと進入する。外からでもその大きさはすごかったが、中に入って見るとそれは美しさが段違いというほどだ。
「ああ...あなたは!」
京さんは大きな木の下に立っていたその女性を見てそういう。その女性は京さんを恥ずかしそうに見て何かを渡した。それは4つ折りの紙と白いハンカチだった。
「えっと...ずっと返しそびれていたかた...」
「覚えていてくれたんだね」
「うん」
それだけを言うと照れながらその女性は去って行った。俺が事情を聞くと、どうやらこの学校に在籍していた頃にこの木の下で怪我をしていた彼女を手当し、ハンカチを渡していたらしい。だが卒業後も返しそびれタイミングを逃したままだったのだがこのようなメッセージで送ってきたのだ。そこハンカチには「けい」とひらがなで名前が書いてある。そしてその紙にはお礼のメッセージが書かれていたという。
「よかったですね」
「ええ!」とその人は笑顔でそう言っていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。ですがあなたはおそらくまだ彼女が思う本当のメッセージにお気づきでないでしょう。
タイトルを思い出して見てください。「本当の気持ちは桜の木の下で。
桜ってこの小説にも何回か出てきましたよね??そしてその桜には木があります。その下には...。