二月の孤独 1/4
雪が降ってきた。窓から見える白い華たちに、去年の今頃は薄く雪が積もっていたわね、と思い出す。先輩はどのように過ごしているのだろう?寒くないだろうか?寂しくないのだろうか?目線を下に移すと、机の周りには先輩へと送る絵葉書の返事の失敗作で溢れていた。
私は未だに鳩につける先輩への返事に迷っていた。『行きます』との無難な返事が良いのか?それとも、『お身体大丈夫ですか?』との体調を気遣うものの方が良いのだろうか?書いては丸め、書いては丸め。答えの見えない問題に私は時間を忘れ、長い間頭を抱えていた。
「おねぇちゃん」百合子の声にハッとし上を向く。「大丈夫?何回呼んでも反応なかったから…その、晩御飯いるの?」
目線を上にあげて時計の針を確かめる。それは一九時半を指していた。一体何時間もの間、試行錯誤していたのだろう?
「ごめん!今日は私の当番の日よね!?」
急いで立ち上がり百合子に謝る。夕食の時間が一八時からということは、これはずっと前の居候たちと相談しあった植木家の決まり事である。平日は早苗さんが食事を作っておいてくれるのだが、今日は休日。私と百合子と二人で当番を分けており、一八時までにその日の当番が晩御飯の用意をしなければならないのだ。今日は私の当番の日であった。
「ご飯はとっくに作ったよ。理恵ちゃんが手伝ってくれたの…。それにもう皆食べ終わったし…。ねぇ、お姉ちゃん最近おかしいよ?大丈夫?」
心配そうな顔で私をじっと見つめてくる彼女の目線をついつい晒してしまう。私のこのモヤモヤした黒い感情を、純粋な目をした彼女に知られるのが何故だか怖かった。
「大丈夫。ちょっとテストの結果が悪かっただけ」
「本当に…?」
妹と目線を合わせず、へらっと含み笑いを浮かべ立ち上がる。まだ私を疑っているのだろう。彼女からの強い視線を感じる。だが、それを無視して彼女の横を通り過ぎ、何食わぬ顔で部屋から出て階段へと向かう。
「片付けは私がするから…」
「お姉ちゃん…」
百合子の切ない呟きにギュッと胸が締め付けられた。何も私は悪いことなどしていない。なのに何故こんなにも罪悪感が心の中を支配するのだろう?足が少し速まった。だが、階段の手前で出くわした人物にぎゅっと右腕をつかまれ、行く手を阻まれた。
「あいつはやめとけ」




