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外の世界

 部屋の外にでると、奥まで続いている長い廊下が目の前に現れた。この部屋に来る時にも感じたのだが、何故こんなにもこの世界は白を基調として造られてるのだろう?人の温かみを感じさせず、私は一人なのだ、と、強く孤独を押し付けられている気がしてままならない。心細い思いが私の胸にチクリと刺さる。そこを優しく撫でてやると、首に掛けられているお守りに触れた。少し固いこのお守りは、触れるだけで何故だか少し元気をもらえるような気がする。


 壁に手をつきながら果てしない廊下をただただ真っ直ぐに進む。来た時の道のりを覚えていたわけでは無い。むしろ、殆ど覚えてなどいないのだ。だが、まるで体がこの道を知っているかのように軽快に足が前へと進む。


 少しした後、廊下の突き当たりに奇妙なドアを見つける。それは、以前一度だけ百貨店で見たものと機能は同じようなのだが、似ても似つかわしくない風貌をしていいた。その箱の中へと入り、30までの数字が並んだそれの中から『1』の文字を探す。しかし、奇妙なことにその数字はなかった。私は迷った。『2』の下にある『ロビー』と書かれたボタンか、更にその下の『地下』と記載されているそれかを。だが、学校で習った記憶がある。ロビーとは確か広間のことだ。私は一か八かでそのボタンを押した。


 暫くすると何やら異国の音声が流れ、ドアが閉まった。やはりここは外国なのかしら?私は頭を捻る。それにしても、この下へと向かう時の奇妙な感覚が好きになれない。頭の中が引っ張られ、脳内に寒気が広がってくるこの感覚。私は目を固く瞑ってこれをやり過ごすことにした。


 再度異国の音声が流れ、扉が開く音がした。颯爽と目を開けて顔をその箱の中から少しだけだし、辺りをキョロキョロと観察する。奥の空間に長椅子と机が3脚並んでいるのが見えた。


 - あぁ、ここだ…


 私は安堵し、前へと歩み始めた。


 「植木さん、いかがされました?」


 ハッとして声の主の方へ体を向ける。そこには『受付』と書かれた台の奥にご老人が男女二人並んで立っていた。どうやら男性の方が声をかけてきたらしい。「植木さん…」と言葉を紡ぐ。一方で女性は私の姿を確認すると、そそくさと奥の部屋へと入っていった。


 「靴を履かないと外は寒いですし、痛いですよ。今お呼びしますので、あちらのソファーで…」


 確信した。男性は私をここに呼び止め、向こうへ去った女性はきっと部屋にいるあの婦人を呼びに行ったのだ。私はあの部屋に戻りたくい。彼女の泣き顔をこれ以上見たく無いし、彼が待っている気がしてならないから。


 - ここから早く立ち去らねば


 その一心で、受付の前を走り抜ける。私の名を呼ぶ男性の声がこの空間一体に響き渡り、あまりの大きな声に私の体は萎縮してしまった。その反動で、目の前の透明な扉に体が鈍くぶつかる。


 - どうしよう?このままでは捕まってしまう…


 だが、そんな不安もすぐに消えゆく。まるで天が私の背中を後押しするように、目の前の透明の扉がゆっくりと急に開き出したからだ。


 - 今だ!


 私は吸い込まれるように、小さな隙間の間をすり抜け、走り去っていった。







 外に出て驚いた。行きの車窓から見えた風景は確かに初めて見る景色ばかりであったのに、今、この目の前の景色はわかる。この匂いも、この温かな日差しも私は知っていた。何故だろう?つい先日までいたような気もするのに、懐かしくも感じるのだ。


 「戻ってきたのね…」



 扉の外の世界は、高校の正門の外に繋がっていた。

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