一月の失踪 4/4
公園に着いた私たちは人気のない殺風景な広場を見てため息をついた。夏ごろにはあんなにも多種多様な色で彩られていた花時計を囲むように人で賑わっていた公園は、今は枯れた草木の周りをエサを探し歩き回っている無数の鳩たちに占拠されている。一抹の寂しさを感じた。
「やはり何もなかったか…」
それでも何か手がかりはないかと暫く三人で探し回った後に、佐藤先輩のそう言葉を零した。そしてその声に反応するかのように、数羽の鳩が花時計の周りから突然飛び立っていく。「きゃあ」と美子が驚いて声をあげる。私は懐かしい気持ちを感じた。こんなこと前にもあった気が…。
「お姉ちゃんだよね?」後ろから男の子の声がした。振り返ると、そこにはまだ幼い顔をした少年が籠を大事そうに抱えて立っていた。「鳩を買ってくれようとしていたお姉ちゃん?」
「あ…」私は言葉を探す。「久しぶりね。あれから暫く見なかったけど元気にしてた?」
「梅子、どちらの子なの?この子」美子が私の後ろから顔を出して少年を見つめながら問う。
「鳩売りの男の子よ」私は軽く微笑んで美子にその少年を紹介する。「夏の頃にね、この子が鳩を売っていたのよ、この公園で。で、私が買おうとしたら先輩に怒られちゃって…。そういえば、ぼくも怒られてたよね」
少年は私の声を聞いて肩をすくめた。
「なんで鳩を買うのがダメなの?」美子が不思議そうに首をひねる。
「鳩は帰巣本能があるから…」私たちの会話に佐藤先輩が口を挟む。「例え買ってもまた鳩はこの少年のもとに帰るってわけ。一種の詐欺みたいなものだよ。聞いたことはあったけど、こんな小さな子供もやってたなんて…」
少年は今度は頭を横に振る。「今はしてないよ。あっちで靴磨きをしてる」そう言って映画館の方を指さした。
「そうなのね…」なんて声を掛けたらいいのか私は分からずに少し下を見る。
「それより、お姉ちゃん。ぼくアメラジアンのお兄ちゃんから手紙を受け取ってるの。お姉ちゃんが来たらちゃんと渡してって…」そう言って絵葉書を私にみせる。
「ありがとう」そう言って受け取ろうとしたが、少年は少し下を向きながらこう続ける。
「返事を書くなら、一枚100円だよ」
私たちは顔を見合わせる。
「どこにいるか知ってるの?」
「僕は知らない。この子が知ってるの」
そう言って鳩を私に差し出した。
佐藤先輩はその声を聞いて、「高いな…」と文句を言いながらも小銭を彼の手に握らせた。
少年は「ありがとう」と顔をキラキラさせて、鳩の入った籠と一枚の絵葉書を私に手渡した。「今度は靴磨きしにきてね!」そう手を振りながら去る少年を見送った後、私たちは一斉に絵葉書へと目をうつす。
『卒業式ノ日 十五時 コノ場所デ』
薄い墨で書かれた花時計の絵の隣に、この文字が記されてあった。
ようやく仕事が落ち着いてきたので更新しました。
この鳩のストーリーを描くためだけに花時計を舞台にしました(笑)
それから…。
久しぶりの更新なので前の話を自分で読んでいると、なんて脱筆…。
少し編集したいのですが、気にしだすととことん気にするタイプですので、
最初にまずこの小説を書き終えてから、
気になる部分を編集していきたいと思います。
それでは今年もよろしくお願いいたします。




