一月の失踪 3/4
放課後、私たちは佐藤先輩と共に彼の家へと向かった。彼の家は先輩と同じく隣町にあるので少し遠いのだが、他の先輩たちの電話番号のメモが彼の家にしかないことから、少し長い旅路を三人で歩んで向かうことになった。先輩は自転車を押しながら私たちの歩幅に合わせて歩いている。
ようやく彼の家に着いた頃には、夕焼雲が空を覆っていた。集合住宅の一室が先輩の家である。建物の周りは人の声で賑わってはいたものの、先輩の家には誰もいなかった。皆、仕事に出かけているそうだ。私の家には帰宅するといつも誰かいる。自分の家とは異なり、少し寂しい雰囲気の先輩の部屋に少し怖気ついた。
「そのへんに座ってて」
案内されたお茶の間に私たちは腰を下ろす。そこには沢山の写真が飾られていた。そしてそこに並んで、先輩が描いたお兄様の油絵もまた飾られてある。私はじんわりと心が温かくなっていくのを感じた。
その後暫くして、先輩が探し出してきたメモ書きから、山崎先輩と田辺先輩の電話番号を見つけ、彼らにダイヤルを回す。
「佐藤ですけど…」緊張した面持ちが話が進みにつれて険しくなっていく。その表情を見ただけで私たちは十二分に理解した。結果を聞かなくても分かった。どちらの先輩も岡田先輩の行方、それどころか彼が失踪した事実さえ知らなかったのだ。何の手がかりも掴むことができなかった。「受験勉強中に申し訳なかったな…」そう呟きながら電話を壁に掛ける佐藤先輩の顔はひどく落ち込んでいた。
「二人とも知らないなんて…。本当に岡田先輩はどこに行ったのかしら」美子の呟いた声が小さな部屋に響き渡る。
「岡田君のことを知ってそうな人。或いは、彼が行きそうな場所など知らないか?」
佐藤先輩の問いかけにすぐに浮かんだのは、あの花時計のある公園だった。でも、こんな寒い中彼が公園にいるとはどうしても思えなかった。私はゆっくりと先輩に向かって首を振る。「分かりません」と。
「本当に?」私の返答に美子が首をかしげる。「梅子と先輩の出会った場所とかに手がかりがあったりとかしないかしら?」
「私も初めはそう思ったわ。でも、先輩が浮浪児のように外で寒さを凌いでいる、なんてどうしても思えないの…。それに…、あれだけあの公園に通っていたのだから、先輩のお父様もきっと知っているはず。まず始めにきっとそこを捜索されているわよ」
私はそう力説した。どうしても先輩があの公園にいるなんて思えなかったから…。
「でも、手がかりは今は皆無なんだ」佐藤先輩は徐に立ち上がる。「可能性は低くても、まずは行動しないと何も掴めない。一か八かでも問題ないからその公園に行こう。案内してくれるね?」
佐藤先輩の優しいが有無を言わせないオーラに圧倒されながらも、私はしぶしぶ頭を縦に振る。
こうして私たちは先輩と初めて出会った、あの花時計のある公園へと行くこととなった。




