一月の失踪 1/4
「「明けましておめでとう」
美子とこうして二人で登校するのはかなり久しぶりな感じがする。すっかりと葉が落ち切ってしまった寂しい木々の間を私たちは並んで歩いている。周りが殺風景だからだろうか?私たちの遥か前にいる妹とその友人の楽し気にはしゃいでいる声が微かに耳に入ってきた。
「冬休みはどう過ごしたの?」私はいつもの調子で彼女に問いかける。
「いつも通り親戚一同集まってお祝いしたわ。皆で餅つきをしたり、年越しそばを食べたり、初詣に行ったり…」美子は笑顔でそう答えた。「だけどね?急に新年の挨拶に来たのよ、公平さんが…。そして、あと二年だね、って言われて…。私、もっとちゃんとした形でお伝えするつもりだったのに…。つい現実を突きつけられたことに辛くなってしまって、先輩のことを話してしまったの…。光平さんは苦い顔して笑っていたけど、それを盗み聞きしてた父がもうカンカンになって怒ってさ…。新年早々から疲れたわよ、私」
「えっ!?」急な話に頭の思考回路が追い付いてくれない。私は美子の顔を見つめるだけで精いっぱいだった。「それで、どうなったの?」やっとの思いで絞りだした言葉は次を催促する問いかけであった。
「光平さんがすごくいい人でね?私に怒りをぶつけることなく、そっか、とだけ呟いて…。とりあえず、向こうのお父様にそれとなく話してくれるって…」美子は俯きながら言葉を紡ぐ。「でも父は向こうの家と縁を結ぶことに必死だから、まだこの婚約が破談になるのかどうなのかは分からないの…。だけど、きちんとケジメがついたら報告するから。ちょっと待っててね」
親友なのに、こんな時に気の利いた事一つも言えないなんて…。情けない気持ちが私を襲う。言葉が出てこないので、私は大きく首を縦に何度も振った。
校舎が見え、靴箱で上履きへと履き替えているとき、なぜだかちくちくと周りの視線が私たちに突き刺さる感じがした。それに加えて、年明け初めの登校日にも関わらずあまりにも登校している生徒が少ない。違和感を覚えて二人で顔を見合わす。
「今日って始業式であってるわよね?なんだか人が少ない気がするのだけど、気のせいかしら?」
「三年生が登校しなくなったからではなくて?それよりも、私は凄い視線を感じるのだけど…。気のせいかしら?」
年明けはどちらの学校もそうなのだが、受験や就職活動などで三年生は殆ど学校へ登校しなくなる。だが、それを踏まえたとしても、あまりにも生徒数が少なすぎる。それに、明らかに周りの幾ばかりかの生徒たちが私たちを見てこそこそ、ひそしそと話し始めるのだから落ち着かない。
私は美子とお互いに顔を見合わせて首をかしげる。何かあったのだろうか?
教室へと歩んでいると、その扉の前にそわそわと立っている懐かしい影が見えた。佐藤先輩だ。
「明けましておめでとうございます」私は軽くお辞儀する。「一年の教室までくるなんて珍しいですね、どうかしましたか?」心なしか隣にいる美子の顔は不安げな表情を浮かべていた。
「あ、おめでとう…。それより君たち聞いた?」彼は美子の肩を掴み、私と彼女を交互に見ながら早口で続ける。「年明け早々、岡田君が失踪したらしい」
私は寝耳に水だった。年越しは一緒にあんなに温かな気持ちで過ごしていたのに…。あれから日はそんなに経ってはいない。何がどうなっているのか。私は美子の方へと目を向ける。彼女も心なしか不安な気持ちを瞳にのせたままこちらを見ていた。
私は口がワナワナと震えるだけで言葉を発することができない。足もまた寒さとは別に、言葉で表現できない恐怖のせいでブルブルと震えている。
「何があったの?」
絶句する私の隣で美子が代わりに尋ねてくれた。




