十二月の年越し 5/5
光一さんに連れて行かれた場所には、既に人が多数群がっていた。そして、その人の群れから少し外れたところいる彼へと、私の視線は自然に動いた。何故だろう?いつからなのか、私は先輩をすぐに目にとらえることが出来る様になっていた。私の「先輩…」と零れ落ちた言葉に光一さんの手が少しゆるみ、私はそれを合図に先輩の元へ走って行った。
「ごめん。目を離した隙に見失ってしまって…大丈夫?」
先輩の柔らかい声が私の胸を温める。
「私こそ、集合場所を聞いていなくてすいませんでした…」
するとひょっこりと、先輩の後ろから百合子が顔をだした。「皆んなお姉ちゃん待ちだったのよ?はい」百合子はそう言って私に何かを手渡す。「振る舞い酒だよ。甘酒だったから、飲んでも大丈夫だって!」
それを口に含むと、甘い香りが口の中に広がった。
「よかったら、ちょっと行きたい所あるんだけど…」先輩の声に私は和やかに対応する。
「そうですね、行きましょうか」
「私も行く!」百合子が言葉を遮り、そう言ってきた。
「百合ちゃんはもう眠いでしょ?」
「一緒に帰りましょ」
私が百合子に応えようとしたのを妨げるように、孝子ちゃんと理恵ちゃんが言葉を重ねる。百合子は口を尖らせながら彼女たちを睨んでいたのだが、「お年玉…」の言葉で簡単に釣られてしまった。
「じゃあ、植木さんたちと帰るから」そういって、父を連れて四人は帰路に着く。光一さんは知り合いがいた様で、一人違う団体へと消えていった。
父たちを見送った後、先輩の手が当然のように私に触れようとした。が…、彼が手袋に気がつく。
「あれ?手袋はめたんだ。寒かった?気が付かなくてごめんね…」
私は首を大きく横に振ったが彼には届かなかったようだ。少し眉を垂らし、私を置いて先へと進んでいってしまう。私は少し残念な気持ちになった。
- 触れたかったな…
先輩の後ろ姿を追いかける様に後へと続く。意外と彼の足取りは速い。人も多いので、見失わないように彼の服の裾を掴み前へと視線を向ける。すると少し奥にはまた長い行列があり、人々の活気で満ちていた。どうやら彼の行きたかった所は、授与所のようだ。
「お互いに、お互いの御守りを買わないか?」
悪戯に笑う先輩に私は微笑みで応える。
そして、私たちは巫女からそれぞれお守りを買った。
私は当然、先輩の大学受験を願い『合格祈願』のものを…。色は先輩の瞳と同じ空色のものを選んだ。
そして先輩は、いつまでもそのままの温かな家庭を守れるように、と私の名と同じ梅色の『家内安全』のお守りを買ってくれた。
私たちがお互いに買いあった、最初で最後の贈り物である。




