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十二月の年越し 4/5

 あまりの人の多さに心配されていたのだろうか?参拝するまでの間、先輩とは手が繋がれたままだった。恥ずかしさと嬉しさで顔の筋肉が引き攣ったり、綻んだりして忙しい。だが自分達の順番が来て徐に手が離された時、緊張が緩んでしまった。先輩はおろか、家族の皆んなまで見失ってしまう。


 喧々たる賑やかで楽しい声が聞こえて来る。しかし、私の胸は周りとは異なり不穏な音を鳴らしていた。一人でいることがなんだか怖い。寒さではなく、寂しさと不安で体が震えだす。


 「あいつのこと好きなのか?」ふと頭上から落ちて来た声に私は思わず上を向いた。そこには光一さんが居た。一人ではなかったことに安堵し、ホッと胸を撫でおろす。「ほら、これつけてろ」光一さんはそう続けて手袋を私に差し出した。


 私は寒いわけではなかった。だから光一さんの手袋を両手を振って「大丈夫です」と断ったのだが、彼は差し出した手を引っ込めない。ついに私は堪忍して、彼のそれを借りることにした。


 「先輩の事ですよね?」彼の手袋をはめながらそう聞く。そして次に続けようとした言葉に私の顔に全身から熱が集まってきた。そんな言葉恥ずかしくて言えたものでない。だが、光一さんはそんな私から目を離そうとしなかった。彼の視線に耐えかねて、コクリと頷くだけで私は精一杯だった。


 「そっか…。後悔はするなよ」そう言って私の頭をくしゃくしゃとかき乱す。こんな事初めてされた。どんな顔をしているのか?気になって彼の顔を覗き込んだが、光一さんの顔は暗くてよく見えなかった。


 「光一さんには関係ないじゃないですか…」私はせっかく綺麗にといた髪を荒らされ、口を少しとがらせる。


 「だがあいつとの将来を見据えるなら、もっと勉強しろよ。あいつは岡田家を背負う覚悟が足りなさすぎるし、物事を全く考えずに行き当たりばっかりで行動してる」


 「そんなことないです。先輩は充分我慢されていました。自分の事をもっと大事にすべきだと私は思います」


 「そうか…」光一さんの眉は垂れ下がっていた。そんな切なそうな顔を私は初めて見る。「でも、君には普通な人が似合うと思う。彼みたいな特別な人間より、普通な人を選ぶべきだよ」


 まるで先輩の事を遠回しに諦めろ、と言わんかの様な口調だった。私は少し強めの口調で言葉を返す。「まだそんな先のことなんて分かりません。でも、わたしの普通の中に先輩はいます。普通でないとは思えません」


 「そっか…。そういうと思ってたけど」一瞬目を見開いて驚いてはいたものの、すぐににやりと怪しげに笑ういつもの光一さんに戻った。そして、私に何かを投げてきた。キャッチしたそれは『交通安全』と書かれた赤いお守りだった。


 「これは?」


 「いつもぼーっとして登校してるだろ?もっと気をつけて歩けよってことで!」そして私の返事も聞かず、「あっちでやってる振る舞い酒の所で皆いてるから」そう言って私の手を取り、その場所へと引っ張っていった。

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