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十二月の年越し 2/5

 年末は大忙しだった。家の大掃除はもちろんだが、何より父の仕事の手伝いは時間を忘れさせるものだった。朝早くから並ぶ長蛇の列を捌いていく。いつもは手伝わない百合子もこの時ばかりは戦力になり、今年はなんともありがたいことに、居候の三人も手伝ってくれた。


 そんな年末の日々が目まぐるしく、まるで嵐のように過ぎ去っていく。そしてあっという間に大晦日を迎えることとなった。


 この日も店は有難いことに繁盛しており、私は時間も忘れて慌ただしく働いていた。すっかり辺りも暗くなり、ようやく店じまいが終わったのは20時過ぎであった。先輩との約束は21時過ぎだ!あと数十分しかない!私は駆け足で家へと戻り、急いで用意を整える。


 部屋からバタバタと出てきた時に、先に戻っていた光一さんと鉢合わせした。私はぺこりと軽く会釈しそのまま階段を駆け降りようとする。


 「どこか行くのか?」


 あまり話しかけてこない光一さんの低い声にドキリと肩を震わせる。


 「友人と…」私は歯切れの悪い返しをした。先輩の事を隠しているわけではないが、どうしても羞恥心が勝ってしまって大っぴらに報告なんて出来ない。


 「夜、いくら人が多いとはいえ女性たちだけだと危ない。俺もついていくよ」そう言って彼は部屋からコートを取り出した。


 - どうしよう…


 光一さんは私の友人を女性だと勘違いしている。私を越して先に階段を下りていく光一さんを見て「あの…」と声をかけようとしたとき、その声をかき消すようにバタバタと百合子が駆け上がってきた。


 「お姉ちゃん!王子様きたよ!」その声に光一さんは眉間に皺を寄せた顔で振り返る。私はバツが悪くなりつい、下を向いてしまった。「ほらほら、はやく!はやく!」百合子は私の腕を引っ張り一階へと連れて行く。その時にすれ違った光一さんの視線がやけに痛かった。




***




 下へ降りると、先輩と父親が玄関で話していた。先輩が腰を低くして自分の父と話している様子に、私は恥ずかしくなってしまって顔をリンゴのように染める。


 「今から参拝にいくのは早すぎる。外は寒いし、ここで少し休んでから、もう少し遅い時間に皆ででかけよう」


 父は突然の先輩の登場に困惑しているのか、私と目を合わせずにボソリとそう伝えてくる。私も言葉を放たずに、コクリと首を縦に振った。


 父と会わせるのが恥ずかしかったから、少し離れたところで彼と待ち合わせしてたのに…。私は百合子をちらりと睨む。


 「だって、王子様は目立つんだもの。外は寒いしお家に呼んだの?ダメだった?」全く悪ぶれずに百合子は答える。「さあ、入って入って!あ、お姉ちゃん!私の蕎麦作って!」


 百合子は先輩に笑顔を向け、茶の間へと案内を始める。


 「ごめんなさい…」


 「いや、こっちこそ。こんな忙しい日にごめんね?」そう言って我が家へと足を踏み入れた。先輩が我が家にいるって変な感じがする。なんだか歯がゆい。「君の家は温かいね。お邪魔します」


 

 この二人の初々しいやり取りを見ていた光一さんの視線に、私はついに気がつくことはなかった。

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