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十二月の年越し 1/5

 「大晦日、家から出られるか?」


 私が先輩とお付き合いを始めてもうすぐ一ヶ月。冬休みに入り、我が家の鶏肉屋は正月に向けてのかきいれどきで慌しい日々を過ごしていた。そんな束の間の休息時間を見計らって、先輩が電話をかけてきてくれた。私の様子を物陰から、百合子と孝子ちゃん、理恵ちゃんの三人がニヤニヤした顔で覗き見ている。


 「やっぱり大晦日も忙しいかな?正月明けてからでも問題は無いんだけど…」


 「大丈夫ですよ。ただ、夜になりますが…」


 「よかった。夜の方がいい。合格祈願もかねて、神社にお参りに行きたいんだ」


 「それでしたら、夜中に出れますか?初詣は如何でしょう?この時期なら人も大勢いますので、父から咎められることもないと思いますし…」


 「そうだな。じゃあ、君の家に迎えにいくよ」


 「えっ、でも…」私は嬉しい反面少し複雑だった。家なんかに来られたら、皆んなに冷やかされる。そんな羞恥の気持ちが芽生えてくる。


 だが、そんなことはつゆ知らず。先輩は、「じゃあ、また連絡する」と言って電話を切ってしまった。私はその切れた電話を暫く見つめたのち、ため息をつきながらそれを壁にかけ直す。本当に迎えに来るのかしら?嬉しさと不安とが混ざり合い、ドキドキと心臓が高く鳴った。


 「お姉ちゃん!今の花時計の王子様でしょ?」目をキラキラさせながら百合子が駆け寄ってきた。つい半年ほど前まではまだまだ子どもだと思っていた彼女は、化粧を覚えたせいなのか、今ではすっかり女の色気を醸し出している。「急に仲良く一緒に下校していると思えば、今も楽し気に電話なんかして…なになに!?もしかして恋人とか?」


 冬休み前までは放課後、「冬は日が沈むのが早くなるから…」と言って、よく先輩が私を家まで送ってくれていた。それを初めて見た時、百合子は驚きで荷物を全て落としてしまった。それから暫くの間彼女の思考回路は停止してしまったのか、終始上の空であった。今ではようやく受け入れ、この状況に慣れて来たのか、きゃっきゃっと黄色い声をあげて私をからかってくる。


 私は顔を赤らめながら、「初詣のお誘いよ」と小さな声で答えた。彼氏だとは言えなかった。何故だか分からないが背徳感というか、罪悪感というか、恥ずかしさが勝ってしまって本当のことを言うのが憚られた。


 「ええー!?お姉ちゃん、毎年皆んなで行ってたじゃない!今回は一人抜け駆けするの!?」眉を下げて百合子は寂しそうに声を上げる。


 「それとは別に、また朝方一緒に出かけましょ」私は百合子をそう言って宥めたのだが、それでもまだ口を少し膨らませ悲しむ彼女にそれ以上は言えなくなった。


 「百合ちゃん?お姉さんに甘えてばかりはダメよ」孝子ちゃんが百合子の頭を撫でながらそう言う。


 「私たちは正月は帰省しないし…」理恵ちゃんは何か閃いたように手を合わせて続ける。「二人のデェトを邪魔するなんて論外よ?私たちと一緒に行きましょう」


 そう言い終えた彼女たち三人の顔は怪しげに笑っていた。私はその表情を見て、背筋に悪寒が走ったのだった。


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