決意
絵葉書を発見してから、私はしばらくの間呆然としていた。書いてある内容は分かるのだが、誰から誰へと宛てられたものかははっきりと記載されてはいない。だけどその絵の色使いとそのタッチから、手紙の主が誰なのか、そしてそれが私宛てのものであるのは直感的に分かった。
- 私は誰かと待ち合わせしていたのか……
そしてふと一つの疑問が頭をよぎる。
- なぜこの絵葉書が枕の中に隠されるようにして置いてあったのか
疼く頭を抱え込み、ズキズキと小さな痛みを我慢しながらも記憶を辿る。遠い記憶は未だに靄がかかったような状態ではあるものの、少しずつ間近のものは思い出すことができた。
私はなぜここにいるのか?
それは、あのご婦人があの部屋へと迎えにきたからだ。
私はなぜあの部屋にいたのか?
それは、確か二人の男性に話しかけられたから。
私はなぜ彼らに話しかけられたのか…?
道を歩いている時の記憶が朧げに浮かんできた。そう確かあの時、一直線にある場所へと向かっていたのだ。外は肌寒く、凍えそうだった。だけど、そんなことよりも一刻も早く彼に逢いたいと…確かそう思って足速に向かっていた気がする。もしかしたら、あの時点で私はこの花時計の待ち合わせ場所へ向かっていたのではないだろうか?きっと………。
少しづつ頭の靄が晴れてきた。所々ではあるものの記憶が鮮明に蘇ってくる。私は思わず両手で口を押さえる。
そうだ、私は昨日もこの絵葉書をこの場で見たんだ。思い出した!そうよ!大事なあの人に会うために…愛おしいあの人に伝えるために…かけがえのないあの人に触れるために…。温かな雫が私の頬を一筋濡らす。そう、私はこの手紙の主に会いに絵葉書の場所へと向かっていたんだ!だけど、捕まってしまった。やはり私は彼の家にとって不要な人物に位置付けられているのだ。もしかしたら私が朧げにしか思い出せないのは、彼らがお金にモノを言わせて、何か実験を通して、あるいは、新種の薬で私の記憶奪っているのではないか?
全てのパズルのピースが揃った。私は知らぬ間に息を引き取り、天国へ赴いたわけではない!そう、ここは天国ではないのだ!彼に会わせないために、軟禁、いや監禁されている部屋に違いない!私は閉じ込められている!
絵葉書をそっと胸に抱き寄せる。真実を思い出し、私は恐怖で震えが止まらなくなった。監禁されるほど嫌われているとは思いもしなかった…。そして、彼と再会しないようにこんなにも工作されていた、とも…。だけど……、この手紙の主はきっとまだ私をあの場所で待っている…。そんな確かな確信が胸の奥底にあった。
そっとベットから重たい腰をあげ、近くのドアに耳を傾ける。内容までは分からないが、ボソボソと二人の話す声が耳へと振動で伝わってきた。
胸がザワザワと波立っている。心中穏やかではなかった。
- 早く彼に逢いにいかないと…
既に体の震えは恐怖からではなく、武者振るいのものに変わっていた。彼女たちの隙を見てここから今度こそ確実に抜け出そう、私はそう固く決意した。




