十一月の告白 3/5
「先輩のことですか…?」
変な緊張感から冷や汗が溢れ出して来た。
- 何を知りたいのだろう?
私は勢いで「好きです」と言って自分の気持ちに早く整理をつけたかった。でも、せっかくこんなにも仲良くなれた先輩と私の告白のせいで仲を違えるなんてこと、絶対にしたくない。先輩の事が好きだからこそ、好きと伝えることが怖かった。
「うん…」先輩はそっと目を伏せて続ける。「俺さ、自分の生い立ちとか人に話したことあんまり無くて…。しかも、女の子には刺激がちょっと強い内容だっただろ?あの後から何回も何回も後悔してさ…。君は普段と変わらず接してくれるし、それは有り難かったんだけど…。やっぱりどうしても気になってしまって…」
- そっちか!
私は軽く自分にツッコミをいれ、心底安堵する。早とちりして、好きと言わなくて良かった…。
「正直、とても驚きました。何て声をかけるのが正解だったのか、今でも正直なところ、分からないです……」先輩の息をのむ音が聞こえる。「私には想像が出来ないほどの辛い、苦しい過去を過ごされていて…。でも、先輩は先輩です。私にとっては、今、目の前にいる先輩が全てなんです。生い立ちなんて関係ありません」
先輩は私の答えに心底驚いて目を開いていた。「そっか…」彼の呟いた声は僅かばかり震えていた。「その言葉を待ってたのかもしれない…。ありがとう」
「此方こそ、辛いことを思い出してまで教えてくださって、ありがとうございます」私は手を前で何度も振り、軽く頭を下げる。
「何でだろう?君にはすんなり言えたんだよな…。噂を無理に聞いたりとか、俺のことを詮索するような、そんな事する素振りもなかったし…。なんか信頼できる子だなってその時から思ってたのかな?ほら、君は一回も俺のことを軽蔑する様な顔で見たことなかっただろう?」彼はそう言って微笑む。
私は記憶を探る。確かに先輩を軽蔑したことは一度もない。彼の綺麗な見目に驚き、羨望の眼差しで見たことはあったかもしれないが…。
「でも、その…。正直に言うと初めて会った時は流石に驚きましたよ?その花時計の前で…なんて綺麗な人だろうって…」
「そうだったんだ」彼は苦笑いを浮かべる。「多分あの夕陽のせいで君の表情が分からなかったのかも」そう言って何かを思い出したのか、今度はケタケタと肩を震わせて先輩が笑いだした。先輩は最近、様々な表情を私に見せてくれている。素直に嬉しいと感じていた。「急にコロッケ渡して来たからびっくりした」
「あれは妹がねだってたやつで…絵のお礼をどうしてもしたくて…不躾ですいませんでした…」顔を赤くして私は再度軽く頭を下げた。
「あ、そういえばその時に絵あげたんだっけ?」
「はい。妹は花時計の王子様からの贈り物として、今も大切に持っていますよ」
「花時計の王子様だなんて…照れ臭いな…」彼は頭をポリポリ掻きながら言葉を続ける。「そういえば、何故か君の顔を描きたくなって、モデルをして貰った時もあったね」
「あの時はびっくりしました。あの大雨の日ですよね?」私はあの時を思い出す。先輩が好きだと気がついた時だ。胸がじんわりと温かくなった。「とても恥ずかしかったです…」
私たちの間に穏やかな空気が流れる。少し長めの沈黙であったが、それはとても心地よいものに感じられた。
だが、急に先輩が言葉を溢したことにより、この空気の流れが止まった。いや、私の中の時が止まったのだ…。
「あの時、君に恋に落ちたんだよ。きっと…」