十一月の告白 2/5
「あれ?今日もう一人の子は?」
あっと言う間に一日が過ぎ、放課後。いつもの部室で一人スケッチブックに絵を描いていた私に、岡田先輩は静かに話しかけて来た。私は驚いて、「きゃっ!」と小さく悲鳴をあげてしまう。
「わ!ごめん、驚かせて…」
「いえ、此方こそ…。えっと美子は…」私は次に繋ぐ言葉に迷う。先輩に本当のことを言うか。でも…、もしかしたら美子は佐藤先輩との関係をまだ隠した方が良いと思っているかもしれない…。居ない人間のことをベラベラ喋ることは何か違う。私は親友を慮り、適当に誤魔化すことにした。「美子は家の急な用事とかで、先に帰りました。なので今日は私一人です」
「そっか。今日は田辺と山崎も来ないって言ってたし…二人だけだな」そう言って先輩は鞄を近くの机に置いてグッと伸びをした。「佐藤と二人で帰るとこ見てたからデェトでもするのかと思ってた…。そっか、家の用事なのか…」
「え、先輩知ってて…?」私は鳩が豆鉄砲を食らった時のような情けない顔で先輩を見つめる。先輩はそんな私に微笑んで、優しく頭を撫でた。彼に触れられた所が熱を発する。熱い。そして恥ずかしい…。
「ほら二学期始まってからさ、一緒に絵描いてただろう?その時少しね…色々話聞いてたから知ってた。明日揶揄ってやろうと思ってたのに残念だな…」
「私は今日二人の関係を教えて貰ったんですけど……」まさかそんな前から二人の事を知っていたとは…。私は今日までそれを知らされなかったことに寂しさを感じ、不貞腐れて頬を膨らませる。
「付き合ったのは最近だろ?まだあの時は佐藤が一方的に好意を持っているとか、そんな話だったから…」
私の顔を見て先輩は慌てて補足する。私はというと、「男の人同士でもそんな話をするのか…」とぼんやりとそれを聞いていた。そして、長い間関係を隠されていた訳では無い知り、少しホッと胸を撫で下ろした。
「二人がこのままずっと上手くいくといいな」
「そうですね…」
先輩の呟きに私は上の空で答える。婚約者の件、美子はどうするつもりなのだろう?佐藤先輩にはいつ伝えるのだろうか?それとも父親を先に説得するのだろうか?私は一抹の不安を抱えていた。
「ねぇ、話変わるんだけどさ…」先輩は突然そう言って私の前の席に腰掛ける。私はその低い声に少し緊張を感じ、先輩へと恐る恐る目線を向ける。彼の美しい空色の瞳と視線が交わった。ドキドキと心臓の音が激しく鳴り始める。
「君は俺のことどう思っているの?」