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十一月の告白 1/5

 「ねぇ、最近岡田先輩といい感じよね?何かあったの?」


 いつもの朝の登校時、美子は目を輝かせながら私に問う。この頃一気に気温が下がり、私たちは寒さに体を軽く震わす。少し前まで緑がお生い茂っていたこの並木道は、今ではすっかり茶色く少し寂しさを感じるものとなっていた。葉が枯れ落ちてしまった木々の間からは、遠くに去っていってしまった空が見える。


 「そうかな?特に何も無いよ…」


 先輩から彼自身の生い立ちの話を聞いて以来、たしかに美子の言う通り私たちの距離はぐっと縮まったように思う。以前は絵の話しかしなかった私たちも、今では『今日の天気が』とか、『授業が』とか『ラジオが』とか…、たわいない話を普通にするようになっていた。


 「それより、美子は佐藤先輩とどうなのよ?」私は自分の胸中を隠す様に話を変え美子に聞く。


 「……」


 「え?」美子の声が小さすぎて何を言っているのか聞き取れなかった。


 「実はね…、お付き合いしているの……」


 「本当なの?」私は目を見開く。美子はコクリと首を縦に振る。彼女の頬はみるみるリンゴのように赤く染まっていった。その姿に私の胸もドキドキと高鳴り、恥ずかしさを覚えた。「いつから?え、どうやって?告白は?」私はキャッキャと彼女に聞いた。こんな恋の話をするなんて初めてだった。


 「黙っててごめんね…。お付き合いはね結構最近なのよ?えっと…。きっかけは夏休みの時に……」


 彼女は私にどうやって恋に落ちたのかとか、告白のこととか、今まであった事を事細かに教えてくれた。時折り照れる彼女は抱きしめたくなるほど愛おしい。何となく最近二人の距離に違和感を感じていたのだが、まさかこう言う事だったとは!私は自分の事のように喜んでいた。


 だが…、ある事を思い出し、一つの頭によぎった疑問を彼女にぶつけた。「でも、公平さんは…?彼のこと、佐藤先輩は知ってるの?」


 サラリーマンの父を持つ美子の家は、戦前のような少し古臭い考え方を持っていた。それは長男は家業を継ぎ、その他の子どもたち…特に女は本人の意思関係なく、一家繁栄の為または一家の大黒柱の利益の為に政略結婚を進んで行う、というものである。当然の如く美子の父もまた自分の出世の為、取引先の社長の息子と自分の娘に婚約関係を結ばせていた。まだ美子が14歳という子どもの時に…。公平は美子の許婚、つまり将来の旦那様である。美子は高校卒業後、結婚する事を約束させられていた。


 美子は首を横に大きく振る。「伝えられていないの。どうしたら良いか分からなくて…」彼女は悲しげに目を伏せる。「公平さんのことは嫌いでは無いのよ?初めてお会いした時、何て素敵な殿方なのかしら…って思ったんだもの。でも…違うの。先輩のこと本当に私好きなの。一緒にいると胸が苦しいんだけど、温かくもあって…。もっと一緒に居たいって思えるの…。先輩に嫌われたく無いし、知られたくも無いし、離れたくも無いの…。いつ伝えるべきかも分からなくて……」


 わたしにも分からなかった。でも、私は大好きな美子の初恋を応援したいし、彼女の幸せを心から願っている。


 「私はどんな時も美子の味方よ!一緒に考えて、最良な決断を導き出しましょう?まだ時間はあるわ」


 美子は眉を下げて、「ありがとう」と優しく微笑み返してくれた。

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