一枚の絵葉書
ヘンパーノ・鈴木さんに手伝って貰った湯浴みはとても心地の良いものであった。すっきりとした爽快な気分になり、彼女にお礼を伝える。
「植木さんに笑顔が戻って良かったです」と彼女は微笑み返してくれた。「それでは、一度お休みになられますか?」
その後鈴木さんに案内されるがまま、私は寝室へと共に向かった。窓から覗く景色はまだ明るく、到底寝る時間ではないとは思われたのだが、鈴木さんの軽やかな段取りについつい従ってしまう。その部屋は、懐かしい線香が漂っており、奥には仏壇が、手前には簡素ではあるが少し長い腰掛けが設置されていた。
「やけに質素な部屋なのね」私の声は鈴木さんには届いてはいないようだった。
「さぁ、こちらに腰をお掛けください」そう言われ、私はその長い腰掛けに座る。「足はこちらに伸ばして頂いて、あ…そうです。それから、頭はこちらに預けて頂いて……」
その後、彼女は何やらボタンを一つ押す。すると、簡素な長椅子が動き出し、ベットへと様変わりした。すごい!私は天国の素晴らしい技術に大変な感動を覚えた。
その後彼女は「何かありましたらお呼びください」とだけ言葉をおいて部屋の外へと退室した。
私は先程までの温かな湯で少し眠気を覚えていた。このまま流れに身を任せて眠りに落ちたかった。だが、枕に少しの違和感を覚えその位置を正そうと触れた時、カサリ、と何か音がした。再度その枕を触る。カサリカサリ。それは、紙が擦れるような音だった。
私は枕を自分の手元に持ってきて、ジッパーを下げ、開いた隙間に手を入れる。カサカサ。やはり音がした。私は少しの好奇心でそれを引っ張り出す。
それは一枚の封筒だった。中に入っているものを恐る恐る取り出す。それはハガキくらいの大きさのただの古びた白い紙であった。少し残念に思いため息をつく。そして期待せずに、後ろ面も見ようとそれを裏返した。
そこには、色鮮やかな花々に囲まれたあの懐かしい花時計の絵が描かれていた。私は息をのむ。そして、その左端に筆で何かの文字が私の脳裏に焼きついた。
『今夜17時、ここで貴女を待っています』