十月の真実(下)4/4
梅子は彼の話を聞き一筋の涙を流した。泣くのは失礼だと分かってはいたのだが、適当な言葉が見つからず、ただ涙が無抵抗に零れ落ちる。
「母は俺の絵を見て、あの忌々しい日を思い出してしまった。三人で駅へと向かう途中の金色の畑で起きた、血で真っ赤に染められた忌々しい出来事をね……」そして、一度深呼吸し「あの絵はね、破いてしまったから消えているけれど…、描かれていた人影は二人ではなく、本当は三人だったんだよ」と先輩は続ける。「俺的には親子三人で手を繋いで、あの綺麗な景色の中をずっと歩いていたい…、っていう願いだったんだけどな……。でも、それで首を吊るとは…。まさか思っても見なかった……」
「でも、先輩のせいでは!」私の声を先輩は首を振って遮る。
「俺がきっかけだった。それは分かっている。痛いほどね……タイミングも言いようのないものだったし……。父は泣く事なく、激昂しかしなかった。怒ることしか出来なかったんだ。そして勝手に絵を送ったことに腹を立てて、それをお膳立てした白鳥先生をクビにしようとした……。教師人生でなく、顧問のクビでおさまったのは、俺が父親に頼み込んで約束したからなんだ……。もう二度と絵は描かないって……」
私は息を呑んだ。あの美しい壮大な絵の裏にそんな事実が隠されていただなんて。
「父はそれから、あれほどまでに嫌っていた祖父のような薄情な人間になった。まだまだ貧しい人が多いのに、彼らの僅かな仕事を奪ってまで事業を拡大していった。母を忘れる為とは言え、あまりにも酷いものだった。ここの学校の生徒の幾らかはそうさ。俺の親父のせいで仕事を失い、学校にすら通えなくなったやつもいた。部活動させる余裕が無くなる家庭もまた増えていった…。周りは俺ばかりを責めてさ……。ますます外にも居場所が無くなったんだ」
「そんな…。先輩は何も悪くないのに…」私はもうそれしかいう事が出来なくなっていた。口をワナワナと震わせて先輩をみつめる。
「これが俺の…洋パンと呼ばれた母をもった俺の事実だよ」
そう言って窓の方へゆっくりと歩んでいった先輩の頬は、一筋の光が輝いていた。
ようやく10月終わりました。
長い間お付き合いありがとうございます。
後は後半に向けて突っ走っていくだけです!
また、作者から一言として、
進一のように望まれずにいた子どもがいた一方で、
米兵と健やかな愛を育み愛されて産まれた子どももまたいました。
皆が皆んなこのような体験をされた訳ではないです。
偏見や差別が広がらないように……
ご理解くださいますよう、宜しくお願い致します。
母親の自殺までのいきさつは、最後に描こうかな、と持っています。進が報われますように…。