十月の真実(下)1/4 ※
人工中絶は1948年頃に合法となりましたが、
このストーリーはまだ法律上禁止されていた時
として認識していただけますと、
スムーズに読んでいただけるかもしれません。
書いてて、自分自身の心が
抉られていっているのでR15にしてます。
「どうしても産まねばなりませんか?」
女医が帰った後、月麦は感情のない声で進一にそう言った。進一は彼女にかける言葉を探す。
「月麦さんはどうしたい?」
「以前はあんなに望んでいた筈なのに…」月麦は声を震わせながら続ける。「全く喜べないのです。私の大切な我が子に……会いたいと思えないのです……」
進一は月麦の手にそっと触れる。彼女は拒否する事なく、それを許した。進一は安堵し、彼女に答える。
「我が子かもしれない。ようやく……」
「違ったらどうするのです!?」進一の優しい声に被せ、彼女は目に涙を浮かべ反論する。「混血かも知れないのですよ!?あんな…あんな…あんな……もうこれ以上、屈辱的な思いをさせないでください」
月麦は分かっていた。このお腹の子は愛する人との子ではないと。それは根拠のない女の勘ではあったのだが、確信的なものであった。
だが一方で進一はまだ希望を捨てたわけではなかった。あの屈辱的な事の起こる数時間前まで確かに愛し合っていたのだ。辛い事があったからこそ、神が授けてくれた贈り物かもしれないと信じていた。この二年、子が成さなくて月麦は心苦しい思いで過ごしてきていたのだ。彼女を助けられるのは、自分だけだ。
「潜りの医師を探してもいい。だが、一度中絶すればより子を授かる事が難しくなると聞く」進一は彼女の手を握り力強く思いを伝える。「私は産んで欲しい」
「子を産む事が屈辱なのです!」彼女は大粒の涙を流し、まるで赤子のように泣き叫びたがら反論する。奇しくも、彼女が感情を取り戻した瞬間であった。「もし、進一さんと見目の違う子が産まれたら?特殊な見目であったら?もう少し現実を見てください!すぐに近所の噂になります……。もうこれ以上惨めな思いをさせないで……」どうか伝わって欲しいと心を込めて懇願する。
進一は彼女を抱き締めようと月麦に近づく。だが、彼女は肩を震わせて拒絶した。行き場のなくなった自分の両腕を広げて呟いた。「考えさせてくれ……」
次の日の朝、月麦は風呂場に冷水を溜めそこに身を沈めた。それは進一の事が信用できななくなってしまった彼女の独断での行為だった。一刻も早くどうしてもお腹の子を堕胎したかったのだ。だが奉公人に見つかり、この事は直ぐに進一の元に伝わる。
進一は月麦の事を心から愛していた。だからこそ、彼女にこれ以上傷ついて欲しくなかったし、彼女との子を抱きしめたいと願っていた。早く彼女に辛い出来事を忘れさせ、笑顔を取り戻したいと嘆願していた。
そして、彼の決意は彼女を地獄に突き落とす。
「月麦さんは身重の体だ。一番に子を大事にして、もう自分を傷つけるような事をしないでくれ」
「嫌です。この子を愛せる自信がありません」
「産まれる子は、私の子だ!絶対に無事に産んでもらわねばならん!」進一は興奮していた。このやりとりを見ている奉公人が隣にいるという事に気が付かないほどに…。
「お願いします!堪忍してください……」もう、月麦の声は彼には届かなかった。
「今は厳しくとも、産まれた我が子を見れば愛情がきっと湧く。私を信じるんだ……」
進一には妙な自信があった。彼女が授かっているのは確実に自分の子である、と。そして産まれた我が子を見れば、あの忌々しい日を消し去る事ができるほどの幸福に満たされるに違いない、と……。
一家の主人の命により、月麦には見張りがつけられた。それは懐妊し、精神状態が不安定な妻を思っての事だと説明されていた。これにより、月麦は自決することすらできなくなってしまった。だが、この進一の妻に対する異様な行動が、ある奉公人によって捻じ曲げられて屋敷中に伝わることとなる。
『奥様が遂に懐妊だって!』
『やっとか!なんておめでたい!』
『旅行から帰ってきた時、二人とも生気がなかったけど、本当は寝不足だっただけなのかねぇ?ふふ』
『いや、でもそれがね、奥様堕ろそうとして冷水に浸かったんだって』
『あんなにいい旦那との赤子を堕ろそうとしたって』
『しかも、誰にも見つからないようにこっそりとだろ?』
『何かやましい事があったりするんじゃないかい?』
『もしかして、不義の子だったりするのか?』
怪しげな噂は、月麦の腹と共に日ごとに大きくなっていく。
そして遂に月が満ち、月麦は子どもを産んだ。それは待望していた彼らの後継ぎになる、男の子だった。
遊郭の堕胎医など、探してお金を積めば
中絶できたかもしれませんが、
話が進まないので、
進一に罪を被って貰いました。
納得いかない点等あるかもしれませんが、
温かい目でストーリーを楽しんで?
頂けたら幸いです。
10月終わったら、暫くは平和ですので、
もう暫くお付き合いお願いいたします。




