十月の真実(中)4/5 ※
暴力と軽い性描写(R18程ではありません)があります。
苦手な方はご遠慮ください。
また歴史上の事実として、特定の国の人がでてきます。
差別の意図は全くありません。
この時代、同じように苦しんだ人がいた、
とご理解の上、読み進めてくださいますよう、
宜しくお願い申し上げます。
その温泉地までは汽車を乗り継がねばならなかった。部屋に篭りだった月麦には少し酷な旅のよう思えたが、意外にも彼女は足取り軽く進一についてきた。
最寄駅に到着し汽車の外へ出た時、漂う懐かしい香りと目の前の風景に彼女はどれくらいぶりかの満面の笑みを浮かべた。進一はその笑顔を見て、やはり無理してでもこの地に来てよかったと胸を撫で下ろす。迎えにきた旅館の主人に運転してもらい、彼らは窓から覗く永遠にも思える金色の絨毯に見惚れていた。そう、進一はすっかり安堵してしまっており、すぐその傍で起こっていた忌々しいことなど見えていなかったのだ。
仕事が極端に減ってしまったとはいえ、従業員を沢山抱えている進一には本当は休みを取る暇がなかった。だが、無理をしてとったこの休みはほんの二泊三日の短い旅行だった。それでも、充分嬉しいと月麦は微笑んだが、進一は気が気でなかった。『こんな僅かな休みで彼女は本当に気が休まるのか?』と。
だが進一のそんな憂いな思いとは裏腹に、月麦は心からこの旅行を楽しんでいた。まるで、彼女のつっかえていたものがするりと零れ落ちたようだった。まだ到着してほんの数時間しか経ってはいないのに、心が洗われた気さえしていた。
「進一さん…」月麦は外の景色を見ながら優しいあの鈴のような声で言った。「本当は私…。この旅行で離縁をお願いしようと思っていたの…」進一が息を呑んだ音が聞こえた。「だけどね。この景色をみて進一さんへの感謝しか思い浮かばないの。私まだまだ進一さんと居たいの。こんな女として欠陥品なのに……」
「欠陥品なんかじゃないよ」進一は優しく彼女の頭を撫でた。その手があんまりにも温かいものだったので、彼女はつい涙を溢す。「私には、月麦さんが居てくれればそれで良い。周りなんか関係ないよ」
それからこの旅行の間、彼らは幾重も愛し合った。今までの時を埋めるように…。激しく、そして時にとても優しく……。
彼らの最後の幸せな時だった。
***
「来年もまた来よう」
車に揺られながら、進一と月麦は未来の約束をしていた。旅館の主人である運転手はその声を聞き、終始笑顔だった。進一と月麦はこの素敵な景色を目に焼き付けんと、ずっと外を見続けていた。そんな彼らの手は仲良く指と指が握りしめられていた。本当に幸せな時だった。
だが、それも束の間のものだった。突然車が音を立てて止まり、その反動で彼らは前の座席に頭をぶつける。
「すいません。前に車がいたもんで。少し声をかけてきます。本当に申し訳ありません…」
そう言って主人は急いで車から降りて、目の前の立ち塞がっている車に近づく。それは一瞬のことだった。中から四人の大きな体格をした外国人がでてきた。そして、その内の一人が近づいてきた主人を殴り倒す。直ぐに気がついた。米兵の進駐軍だと。
- お金が目的か?なんとかして月麦を守らなければ…。
進一は月麦に決して車の外に出ないよう念をおして、殴られた主人のもとへ駆け寄る。そして米兵に持ち金を全て手渡した。彼らは当然のようにその金を強奪する。その後、徐に月麦の乗っている車を指さした。月麦は座席に頭を擦り付けるように姿勢を低くする。胸が不審な音を立てている。早くこの異常な事態が過ぎ去って欲しい…、と神に願っていた。
どのくらいの時が経ったのか。ほんの二、三分だけだったのかもしれない。進一の叫ぶ声に、月麦は我に帰った。恐る恐る顔を上げる。窓にはあの美しい風景ではなく、ニヤついた米兵の顔があった。奇しくもその人の瞳は後ろに見える空の色と同じく、残酷な美しいものだった。
彼らの目的はお金ではなかった。不気味な笑みを浮かべた米兵は、月麦の乗っていた車を容赦なく激しく殴打する。そして、凸凹になった車のドアから呆気なく彼女を外に放り出した。まさに、一瞬のことだった。
叫ぶ進一の声が虚しくこのあたり一帯に響き渡る。月麦は藁にもすがる思いで、涙で潤んだ目で愛しい人を探す。少し離れた所に、顔や服が爛れ、真っ赤に染まっている進一と、旅館の主人が目に入った。月麦は言いようのない恐怖で腰の力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。米兵はその彼女の服を荒々しく破り、彼女を押し倒す。
そのまま月麦は進一と旅館の主人の前で、何度も何度も彼女の意識がなくなるまで輪姦されたのだった。




