十月の真実(中)1/5
「俺の両親はお互い利権のある政略結婚で最初は始まったんだ。外に出れない父に毎日母は寄り添うことで、次第にお互いにかけがえのない存在になっていったらしい」
「お互い慕っていたのですね、素敵ではないですか」
そう言う梅子を鼻で先輩が笑う。「父は一目惚れだったらしいけど、母はどうだったんだろう?周りに若い男性がいないのもあったから、ただ珍しい父に興味がそそられただけな気もするけど…」
そんなものかしら?と私は思った。
「母は、屋敷の外に出ることのできない父に色鉛筆を渡したんだ。よかったら絵を描いてみませんか?って」先輩は伸びをして前を向く。「それが父が絵を描くきっかけだったらしい」
「お父様も絵を描かれていたのですね」
「最初は庭とか、部屋とか…、適当に目の付くものモノを描いていたらしい…。だが、ふと、母と初めて会った時のあの黄金色の景色を描いてみたくなったらしく、それを記憶の限り再現したらしい」先輩は口角を上げて笑う。「その絵を母が大層褒めてさ、そこから父はその景色ばっかり描く様になったんだ」
黄金の景色とは、先輩も書いていたあの風景画の事だろうか?あそこがお母様の田舎だとしたら、何て素敵な場所なのだろう。そこで育った先輩のお母様はどんな美しい人なのだろう?
「まぁ、二人で一緒の部屋に篭って、ずっと共に時を過ごしていたのだから、恋に落ちるなんて必然な気がするけど…。羨ましい様な…、そうでない様な…」
「お互い惹かれあったのなら、最初のきっかけが何であれ、それは素敵なものだと私は思います」
私は政略結婚とはいえ、最終的にはお互い惹かれあい、恋に落ちたというおとぎ話のような話に、少し羨ましさを感じていた。