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十月の真実(上)2/4

少しフィクション過ぎるかもしれません。

ご留意ください。

 岡田進の父、岡田進一と母、畠山はたやま月麦つむぎは政略結婚であり、当時では稀有な恋愛結婚でもあった。



 岡田家の一族は某県内でも飛び抜けて有名な資産家として名を馳せており、そして進一の父は、その一族の中でも特に敏腕な商売の腕を持つ実業家でもあった。彼はいくつもの事業に手を伸ばしていき、成功しては拡大させ、一族の力は日々大きくなって行く。気がつくと周りに敵はなくなり、大きな権力を握るほどの一族となっていた。


 だが、そんな彼の経営手腕は決して褒められたものではなかった。かなり強引なものであり、また冷酷なものでもあった。とある筋の人間とも手を組み、彼の事業拡大は手段を選ばないものであった。それが故、岡田家はとても恐れられていた一方で、人望を人一倍持ってもいなかった。


 そんな彼には子供が男女三人ずつ、計六人いた。その中の長男である、進一はとても温厚で心優しい人間だった。あの薄情な男の息子であるとは思われないほど…。家に奉公に来ている人間にも、街の外にいる浮浪児にも、分け隔てなく優しい男であった。


 父は「情けない。武士の風上にも置けやしない……」と進一を度々一掃していたが、彼の身の回りの人間たちは進一を深く慕っていた。早く彼が岡田家を継ぎ、一家の主人となる事を強く望んでいた。


 


 そんな岡田家に危機が訪れることになる。それは、太平洋戦争、第二次世界大戦の勃発だった。




 戦争が激化していき、次から次へと若い男子が徴兵されいく。しかし、進一の父は金にモノを言わせて、息子たちの兵役逃れの手を裏で回していた。


 月日が経つごとにより若い男子が戦地へと旅立って行く。だが、三人も男がいるのにまだ一人も兵士として徴兵されていない岡田家は異色であり、近所から良からぬ噂を立てられる標的の的となる。敵なしの家も、戦争という化け物の前では無力であった。


 「このままでは一家もろとも噂で潰されてしまう。お前たち、疎開しろ。暫くはこの家から姿を消すんだ」


 だが、人望の無かったこの家を受け入れてくれる疎開先はなかった。


 「何か良い案は無いものか」最近の父はこの事で頭を酷く悩ませていた。


 「父上、私の友人はもう誰もこの街に残ってはいません」意を決する思いで進一は父に直談判しに行った。「私もこの日本國の男子の一人です。私も國の為に戦地へ赴きます。もう裏金を回す事はお辞めください。噂も消えぬところまで回ってきております。私一人の命で一家を守れるなら本望です。どうか、お願いいたします。」


 「ならん!お前は腐ってもこの家の長男なのだ。戦地へは行かせん」土下座して頼む進一に向かって怒鳴る。


 「しかし、このままでは噂でこの家は潰されてしまいます。従業員おろか、年季奉公人にまでお給金を払えなるかもしれません!もう、私たちだけの問題ではないのです!!」進一は食い下がる。


 「本当はこれはしたくなかったんだが……」進一の強い言葉に目を見開き、少し考えた後父は言葉を繋いだ。「北の県のある大地主が、我が家と縁を結べるなら地主先で疎開させてやってもいいと言ってきている。ただし、一人だけ。旦那となるものだけとの事だ。お前にはもっと良い縁談を用意してやりたかったのだが……。しょうがない…。そこの娘と結婚させよう」


 「私より、弟たちに先に…」


 「お前は長男の自覚はないのか!」進一は父の大きな声に肩を震わせる。「お前は跡継ぎなんだ。よし、もう決意した。なに、進ニたちにもすぐに適当なのを見繕って疎開させる。そう心配するな」そう言って父は一人呼びつけ何やら言いつけた。「進一、お前は優しすぎる。商売には時には冷酷さも必要だということを忘れるなよ。お前は一家の次期主人として向こうでも堂々としていろ。頃が良くなれば呼び戻してやるから」



 こうして後ろ髪が引かれる思いで、家を去ることになった。進一の疎開先は、麦畑の美しい北の国のとある街であった。


 

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