四月の出会い 2/4
私の家には常に2、3人の大学生が居候していた。二階の余っている部屋を有効活用したい、と父が数年前に言い出してからだ。今年は大学に入学したばかりの双子の孝子ちゃんと理恵ちゃん、そして居候3年目となる光一さんの3人である。孝子ちゃんと理恵ちゃんは "サラリーガールになって、女性でも自分の分は自分でお金を稼ぐ!" といった夢を持って大学へ通っている一方で、光一さんは、本家の仕事を継ぐのに必要があるとかないとかで、しょうがなく大学に通ってる怠惰な青年であった。もはや戦後ではないこの時代、それでも大学に通えるなんて凄く幸運なことなのだ。だからこそ、あまり誠実でない光一さんに、私は正直なところ好印象は持っていなかった。が、父を含め、ご近所の方や大学の同級生、並びに先輩方とは馬が合うようで、週末には色々な人に声を掛けられ外出していることが多かった。
私は隣の孝子ちゃんの部屋へ向かい、襖の前で一度声をかけ、扉を開ける。目の前には、嬉しそうに櫛をもった彼女が立っていた。そして、すぐにあれよこれよという間に髪の毛を結ってくれた。ボブと同じく現在流行し始めているポニーテールであったが、少し彼女なりのアレンジが加えられていたため、素朴な私が一瞬で華やかな女性に変身した。
「どう?可愛いでしょ!」満足気に孝子ちゃんは鼻をならし、私を見る。妹は「お姉ちゃん、可愛い!」と目を輝かせて何度も何度もはしゃぎながらそう言った。
私も鏡に写る自分を見ながら、奥にいる孝子ちゃんに「ありがとう」と感謝を述べた。本当に自分が自分でないみたい。素敵な魔法をかけられた気分だった。
私は再度孝子ちゃんへお礼を言ったのち、妹と共に階段を降り、一階にいる早苗さんを探した。早苗さんは皆の食器を洗い終え、台所を掃除しているところだった。彼女は私に気がつくと、「あら、今日は遅かったね。朝ご飯食べる?」と聞いてきた。私はそんなにお腹が空いていなかったので、首を横に優しく振り、隣のお茶の間の襖をあけた。そこの奥に、母と弟の仏壇が置いてある。線香をつけ、ぽーんと鈴を鳴らし、おはよう、と挨拶をする。仏壇の周りが少し濡れている。百合子が花の水換えの時に焦って溢したのだろう。ふふっと、口元を緩めて、行ってきます。と呟いた。
早苗さんは通いのお手伝いさんである。母が亡くなってからもう何年も身の回りの世話をしてくれているので、もはや私たちの第二の母親のようであった。父はほとんど毎日お店にでて仕事をしており、私たちも学校がある。下宿が難しいと思われた時も、彼女が我が家を助けてくれた。私たちにはなくてならない、本当に大切な存在なのである。
「早苗さん、今日はお昼に百合子と隣町まで出かけるから、私たちは昼食は要らないわ。後、今日の夕食の当番は私ですので、洗濯終わったら遠慮せず早めに帰ってくださいね」
再度台所へ向かい、早苗さんへそう伝えた。彼女は私の言葉を聞き、気を付けてね、とにっこり微笑んでそう返した。