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九月の作戦 3/3

 科学研究部の部員たちが思いの外すんなりと快諾してくれたので、それからは少しバタバタと忙しく次の作戦へと移ることになった。


 私と美子は暫くの間美術部の真上の部屋を掃除することになった。いったい、何年もの間使われていないのだろう?真上の部屋は埃で真っ白になっていた。この部屋は佐藤先輩曰く、作業着に着替える場所として確保しているらしい。それは、制服に絵の具の匂いがつくのを防ぐために必要な工程とのこと。体操着でも良い気がしたのだが、岡田先輩の家の人に怪しまれる恐れがあるため、その意見は却下された。


 そういえば、と思い出す。掃除作戦の初日、佐藤先輩がまさかの一言を私たちに発した。


 「埃っぽいのは分かるけど、普段使われてない部屋の窓が開いてたら不審に思われるから、絶対窓は開けないで」


 私たちは抗議したが、当然受け入れられず、できるだけ埃を立たせないように慎重に掃除を開始した。だが、取り越し苦労である。少し動いただけで埃は舞い散り、あっという間に部屋は白く濁った。そしてその悪魔な日々は一週間も続いたのだ。ようやく、見違えるほど綺麗にはなった部屋を手に入れたものの、私たちは咳が止まらず、目の痒みとくしゃみが止まらない地獄の日々を暫く過ごすことになった。


 一方で佐藤先輩は、水浴びの予行練習作戦を一人黙々と行なっていた。髪の毛につくかもしれない匂いに対しての対抗策であった。だが、どうやら上手く行っていないようだ。


 「ダメだー。やっぱり卓球部専用の水場まで距離がありすぎる」


 美術室は3年の先輩方の受験勉強部屋になってしまっているため、佐藤先輩は綺麗になった真上の部屋へ来て、私たちに愚痴る。


 「髪の毛なんかもういいんじゃない?気にならないよ。多分」美子はくしゃみを我慢しながら一気に言う。


 「でも、鼻のいいやつは絶対に気づくって。あぁ、どうしよう」


 「バンダナを頭に巻くのはダメなんですか?頭をすっぽり隠して。そしたら、帰り際に手と顔を洗うくらいでいいと思いますけど」私は目を擦りながら提案する。


 「それだよ!そうしてみよう!」考えるのを放棄した先輩は、すぐに私の意見を取り入れた。




 次の日、佐藤先輩は彼の私服を数枚と大量のハンカチを新たな三階の部室に持ってきた。私たちはそれらを、綺麗に掃除された机の中へ分別して隠す。


 トントン、と後ろの扉がノックされ、科学部の三年の先輩方が入ってきた。


 「来週からだよね、使うの」


 「はい。火曜日と木曜日でお願いします」


 油絵は絵の具を何度も塗り重ねて色を出すらしい。2、3日あけた方が良い味の色がでると、岡田先輩は佐藤先輩に助言していた。なので、私たちは週ごとに使用する曜日を、科学部の先輩方に伝えることになった。


 「匂いが充満するかもしれないから、出来たら少し窓を開けながら絵を描いてね。後、古紙を前の机に置いてるから、それを使って、出来るだけ汚さないようにしてね」


 「もちろんです」


 「あと、もし可能なら、協力した僕たちにも絵をみして欲しいな。頼んでみて」頭を少しかいて、ハニカミながら私にそう言った。


 私はびっくりした。彼らは気付いていた。私たちが絵を描くのではないということを。だが、彼らは詮索しない。そんな心遣いに胸が熱くなった。






 私たちの協力もあって絵は完成した。最初は一枚だけと言っていたが、出来たのは三枚。


 一枚目は、岡田先輩と佐藤先輩の合作の旧校舎の絵。


 二枚目は、佐藤先輩作の彼の兄の絵。



 そして最後は、もう描かないと言っていた人物画。岡田先輩の作品だ。


 それは、顔のない、一人の女性の絵だった。


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