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芝桜

 荒々しく食器を片付けた後、ご婦人がが私の手を引き御手洗いへと連れて行く。


 「ご飯食べたから念のため行くよ」


 ご飯というご飯なんて食べてない。お味噌汁一口と、卵焼きの一切れだけだ。それなのに女性は私の左腕を荒々しく引っ張って奥へと突き進んでいく。それに、お手洗いなんて一人でも問題ない。一体私を何歳だと思っているのだろう?何故かプンプンと怒りながら命令ばかりしてくる彼女に、私は少しずつ怒りが蓄積されていく。


 「一人でも問題ありませんが…」初めて彼女にぶっきらぼうな声でそう伝えた。


 彼女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をし、引いていた手を緩めた。私は逆の手で引っ張られた腕をさする。少し痛かったのだ。「ごめん…」消え入るような声で彼女は呟く。「でも、場所分からないでしょう?」何故か彼女の顔は寂し気に笑っていた。


 御手洗いは玄関から入ってすぐの左隣のドアの場所だと彼女は私に説明する。特に用を足したいとは思わなかったが、少しヒステリックな彼女と離れたくて、案内されるがままそこへ向かう。


 その時ふと、廊下の片隅に一枚の絵が飾ってあるのが見えた。絵の近くへ寄る。雲一つない淡い色をした空の下に薄紅色の芝桜が辺り一面に咲き誇っている絵であった。右端に肩を寄せてその風景を眺めている男女の後ろ姿が一緒に描かれている。小さなキャンバスに描かれてはいるものの、とても繊細に色が重ねてあった。私は初めて見るこの絵をじっと観察して少し考えた。この絵のタッチを私は知っている。そんな気がした。だが、思い出せない。


 「花、大好きだったもんね」


 女性はその絵を私の後ろで見つめながら、そう言葉を零した。それが私に向けられたものなのか、この絵の向こうにみえる誰かに向けた言葉だったのか、私には分からなかった。




 その後私は暴れた。結局ご婦人は御手洗いの中までついてきたのだ。そして、私にオムツを手渡す。オムツ!?赤子でもあるまいし!何たる屈辱!

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