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八月の花時計 3/4

 次の日も光一さんは私を誘った。その日も特に用事がないので光一さんについていくことにする。ただ、今日は数本の鉛筆と白い紙を数枚ズボンに忍ばせていた。また、光一さんに公園で置いてけぼりされた時の暇つぶしの保険として。そして岡田先輩のような綺麗な絵が描けるかな、と心の中で少し楽しみにもしていた。


 やはり昨日と同じく光一さんは公園に私を独り置いていく。花時計は14時を指していた。2時間も何の用事があるんだと少し疑問に思ってはいたが、多分家に引きこもってる私を見かねて外に連れ出しているのだろう、と勝手な解釈をし、彼に問うことはなかった。


 私は昨日と同じく花時計の正面の木陰になっているベンチへ腰かける。そして目の前の風景を小さな紙に描く。鉛筆だけでなく、色鉛筆も持ってこればよかった。白黒では上手に描けたのか分からない。私は自分の書いた絵を見てため息を落とす。


 「だいぶ上達したね」


 心臓が止まるかと思った。あの低い声が聞こえたから。恐る恐る声のする上を見上げる。そこには夏休み前にみたそれとは違う、黄金色の髪の岡田先輩が私の絵を覗き込んでいた。私はびっくりして目を見開いた。


 「あ、髪の色はこれが地毛なんだ。あれこれ言われないように、いつもは白髪染めしてる」初めて見る彼の意地悪そうな笑みだった。「ところで何でここにいるの?」


 髪色のことは佐藤先輩から聞いて知ってはいたのだが、知らないふりで通すことにした。彼のことをこっそり聞いたうしろめたさからである。


 「こうい……、知り合いを待っているんです」


 「絵を描いて?」怪訝な顔をして私を見つめるその空色の瞳はやはり綺麗だった。


 「はい。昨日も2時間ここで待ってて。今日はその時間を有効活用しようと思って絵を描いてます…」


 「こんな暑いのに、外で2時間も待たせるってひどいな」


 「いえ、別に…。ここは涼しいので私は大丈夫です。それより先輩はなぜここに?受験勉強は?」


 「俺はちょっと息抜きだよ。紙一枚頂戴。俺も描く」


 先輩とこんな砕けて話したのは初めてだった。部室で話すことはあっても、どこか壁を感じていたから。少し特別感を感じてついついにやけてしまう。だが、今の服装を思い出して顔が熱くなる。昨日と同じくゆったりしたズボンに白いシャツ、作業着だ。こんなことなら少しでもお洒落しておけばよかった。


 私はこの忸怩じくじたる思いをかき消すように、一心不乱に絵を描く。周りの声なんて一切聞こえなかった。


 「明日も来るの?」ふと先輩が聞く。時計はすでに4時を指していた。

 

 「分からないです…」


 「もし、明日もくるなら色鉛筆持ってきてよ」先輩は優しく微笑んだ。


 私はその笑顔に胸の動悸が早まるのを感じた。「分かりました…」答える声はずいぶんと小さい。


 「待ってるね」


 遠くで光一さんが自転車に跨ったままこちらの様子を伺っているのが目に入った。私は先輩に一礼をして光一さんのもとへ走っていった。

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