四月の出会い 1/4
※ この月は人物紹介がメインになりますので、少し退屈かもしれません。
ご容赦ください。
また、この章は今後編集する可能性があります。
重ねて、ご理解よろしくお願いいたします。
「おねーちゃーん、早く起きて」
慣れ親んだ懐かしい声で私は目を覚ます。畳の心地よい匂いに、先ほどまでの頭の痛さがすっとどこか遠くへ行ったような気がした。のそのそと布団から出て、んーっと体を伸ばす。朝の心地よい日差しに照らされた二脚の並んだ勉強机が目に入る。その隣には小さな本棚があるが、その他は何もない殺風景な見慣れた私たちの部屋。私は頬を徐に強くつねった。自分が夢の中なのか現実に存在しているのかを確かめるために。頬は確かに痛かった。
今は何時だろう。そう思いながら布団を畳み、押し入れへと片付ける。すでに一組の布団が収納してあった。それが妹のものだと理解するまで時間はかからなかった。彼女の布団の上に重ねるようにして自分のものを収納し終えると、埃が宙を舞う。少し多めに瞬きをしながら、新鮮な空気を求めて勉強机の近くにある小さな窓を開けた。既に葉桜へと姿を変えた神々しい新緑が私の目に入る。
「だから読書はほどほどに、って昨日言ったでしょ」ドタバタと先ほどの声の主である妹の百合子が襖を開けて、部屋に入ってきた。「今日は映画日和だよ。ほら、あと見て見て!この髪の毛、孝子ちゃんに結ってもらったの。それからね、新作のリップも貸してもらったの」
おろしたての水玉模様のワンピースを身に纏って、高い位置で綺麗に髪をまとめあげ、薄い桃色の紅をひいた百合子が笑顔で襖近くに立っていた。まだ中学に入ったばかりの妹には化粧は早いのではないか、と心の中では思っていたが、実際に彼女を見ると思っている以上に大人びて見え、紅一つで人はこんなに変わるものなのかと少し驚いた。
ふと、私は部屋に立てかけてある時計を見る。そこには、9時45分と針が刻んであった。
「待って、もうこんな時間じゃない」私は目を大きく開いて、女性悪しからぬ大きな声で叫んだ。
「だから、起こしに来たのよ。朝食はみんなとっくに食べ終わったし。あ、でも光一さんは、頭痛いとかで朝ごはん要らないって部屋に籠ってるわ。昨日アルサロ行くって言ってたから、飲みすぎたのかも。っていうか、お姉ちゃん大丈夫?今日は何だか変だよ」百合子は早口で言い終えた後、眉毛を下げて首を少し左に傾けこちらを見る。「高校大変なの?お店のお手伝いもしてるし、勉強についていけないとか?」
「大丈夫、少し夜更かししすぎただけだから」私は勉強机に置きっぱなしにしてあった一冊本に目線をやりながらそう返した。恐らくこれを夜遅くまで読みふけっていたのだろう。
「やっと起きたの?梅ちゃんがこんなお寝坊さんなんて珍しいわね」妹の後ろからボブヘアに髪型を変えたばかりの孝子ちゃんが顔を出す。「せっかくだし、梅ちゃんの髪も結ってあげようか?」
「あら、孝子ちゃん、おはよう。本当?私も結ってほしいわ」
「いいわよ、用意出来たら私の部屋来てね」孝子ちゃんがそう言って部屋からでると、私も見たい!と言って百合子が彼女の後に続いて出て行った。
私は前日に用意していたであろう置いてあった、黒いリボンが付いたシャツと長い裾の薄いピンク色のスカートへ急いで着替え、隣の孝子ちゃんの部屋へ向かった。