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七月の約束 2/4

 佐藤先輩と軽く言い合いになった日以降、岡田先輩は部室に来なくなった。代わりと言っては何だが、佐藤先輩が毎日部室に来るようになり、彼の絵を一日中探している。始めの頃は田辺先輩と山崎先輩は「焼却炉持って行ったって言ってるんだからもうないって」と毎回眉を下げて佐藤先輩に言い聞かせるように宥めていたのだが、彼は決して耳を貸すことはしなかった。絶対にどこかに隠してあるはずだ、と言って、毎日毎日飽きずに部室をひっくり返し、血眼になって探していた。次第に二人とも部室に来る日がまばらになっていき、とうとう夏休みまで後数日となったこの頃、遂に部室に全く顔をださなくなってしまった。


 私たちはというと、特に何をするでもなくいつもの習慣で部室にいた。絵を添削してくれる人がいなくなってしまったので、本当は来なくても良いような気もしたが、私と美子は足蹴く通った。今では佐藤先輩と一緒に絵を探すことが日課となっている。


 「どんな絵なんですか?」


 「赤くて金色の絵だったと思う」


 「どのくらいの大きさなんですか?」


 「あの、黒板と同じくらい」


 部室の前に飾ってある黒板を指して言う。もし、あんなに大きな、しかも金色の絵ならば、誰がみても一目ですぐに分かるはずだ。なのにこんなに毎日探しているのに手がかりがまるでない。私はもう焼却炉に持っていったのではないのかしら、と半ば諦めていた。


 が、今日は違った。ため息をつきながら、つい一昨日も一度ひっくり返していか箇所を再度ひっくり返し、絵を探していると、突然後ろで大きな音がした。慌てて私たちが振り返ると、遅れて部室にきた美子が扉を開けたまま息を切らして立っていた。


 「もしかして…、先輩の…作品名って…”黄金の国”ですか?」肩で息をしながら彼女は聞いた。


 佐藤先輩は勢いよく立ち上がり、美子を目を見開いた顔で見る。


 「そう!あったの?」


 「今日、裁縫室の掃除当番だったんですけど…」美子は息も途切れ途切れに続ける。「奥の…先生の部屋、えっと、準備室の方に…飾ってありました。立派だったので…つい見とれてると…、二年前の冬頃…、焼却炉の前に捨てられていたって…。綺麗な絵だったし、まだ使えそうだったから、皺を伸ばして飾ってるって言ってました…」


 「教師の名前は?」


 「白鳥先生で…」


 「あ~あの人か」佐藤先輩はなぜか納得したように、手を頭にのせて情けなく呟いた。「盲点だったわ。とりあえず、白鳥のとこ行ってくるわ」と吐き捨てて、急いで部室から走り去った。


 私と美子は二人教室に取り残される。美子の熱い鼓動の音がこちらまで聞こえてきた。いや、私の心臓が興奮している音だ。


 「本当に先輩の絵だったの?」声が少し震えているのが自分でも分かった。


 「私は先輩の絵を直接見たことないから、絶対とは言い切れないけど、多分」


 「どんな絵だったの?」


 「壮大な絵、が一番しっくりくるかも。引き込まれるの、すごく」

 

 私は彼の淡い綺麗な絵しか知らなかった。どんな絵なのだろう。早く見たい気持ちに駆られる。


 「あんな素敵な絵を描いていたのね」美子はどこか遠くを見つめながらウットリと独り言のように呟いた。

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