召喚された、殺された。
それは学校の帰り道だった。
何気ないことをおしゃべりしながら帰っていて、友達がお腹すいたって言ったからコンビニに寄った。
友達がどのお菓子を買うか悩んでる中、涼夏はお気に入りのグミを買って先に外で待っていようとした。
その瞬間だった。
踏んだはずのアスファルトは真っ黒に塗りつぶされていて、そのことに気づいたと思ったら足が沈んだ。
慌てて友達の名前を呼べば、驚いた顔の友達の視線と絡まって。
手を伸ばしたのに、友達の手は、届いてくれなかった。
とぷん、と身体が地面に沈んだ。
水の中に沈んだような感覚。
きゅっと目をつむる。
やだやだやだ! こわいこわいこわい!
体を丸めて息も止めていれば、もう無理、溺れるってところで、その水のような感覚が消えた。
かわりにべちゃっとお尻から地面に落ちる。
「いたた……っ」
「はははっ! 成功したぞ!」
男の声がした。
慌ててその声に顔を上げれば、白い髪の男がいる。
涼夏は咄嗟に声をかけた。
「あ、あの、ここはいったい―――」
「黒髪に黒目! 望み通りだ! これで望みがまた一つ、前へと進んだ!! ふはははっ! 愉快! 愉快!」
全然話を聞いてくれない。
言ってることもちんぷんかんぷんだし、とにもかくにもどういう状況なのか。すがるような気持ちで、くるりと背を向けた男を引き止めようと立ち上がる。
だけど、背を向けた男の人がこちらに向き直った瞬間、腰が抜けた。
「綺麗だ……ああ、君の瞳は黒曜石のようで、髪はまるでそう、カラスの濡れた翼のように艶やかだ……これを毎日見られるというのはなんという至福だろうか……」
「ひっ、こないで……!!!」
恍惚とした表情でやってくる男の人。
その手には―――どうみたって、斧、が。
頭が真っ白になる。
どうしよう、足が震えて、立てない。
ぞわぞわと背中に嫌なものが這い上がる。
やだやだやだ。こわいこわいこわい!
自分と男の関係は、無条件で捕食者と被捕食者なのだと本能的に察した。
私、死ぬの?
友達と、コンビニに寄っただけじゃん。
なんにも悪いことしてないじゃん。
じんわりと涙が浮かぶ。
やだよぅ、お母さん、お父さん。
男の人が斧をふりかぶる。
たすけて。
神様、助けて。
お願い、誰か―――。
きゅっと目をつむる。
次の瞬間、涼夏の意識は刈り取られたかのように暗闇にかき消えた。