魔術演練
一度、感覚を掴んだら、後は何度も魔術を繰り返し、発動と制御を演練し、極める。
いかに素早く魔術を発動させられるか、そして魔術の威力と射撃精度、魔力の消費効率の向上は全て、魔術制御にかかっている。
カズマは毎日の日課となった瞑想を始める。
暗い己の内側で、真の臓を意識する。そして魔術回路を成形する。模擬するのは血液の流れ、自分の血管に魔力を流すようなイメージ、みぞおち付近から生じた魔力を全身に循環させる。最初はポンプで何度も流し込むイメージ、それが今では光の回路とは言わないまでも一呼吸で真の臓から全身へ、全身から再び真の臓へと高速で循環できるようになった。
魔力の流れも当初は打ち寄せる波のようなものだった。しかし、今は澱みも抵抗もなく一定に流れている。
循環が高まる程、魔力はさらに濃厚に煉られ、術として変換していない魔力はカズマの肉体の許容量を遥かに超え体からから滲み出し、それが体の表面に光の回路として描き出される。
それはまさしく、血管であり、体の血流であった。
限界まで高めた魔力を、次は一瞬で魔術として変換、発動させる。
”氷塊結晶”
発動の刹那、体の表面に描かれていた光の回路は、まるで生き物の様に右手に収縮し、マイナス273℃の絶対零度として空気中の水分を収縮し、氷の結晶として発現させた。
魔術の発動にはまず結果を具体的に、詳細にイメージする。氷塊の大きさ、温度それにより魔術に変換する魔力量を算定、変換する魔術式をイメージ、発動。
発動後、魔術はその魔術式にそって氷塊の大きさや、氷の密度に必要な水分を周囲から収集、そのため、部屋の大気が水分とともに、魔術発動点に収縮、圧縮し、最適な温度まで冷却される。
"パリン、パリン"
氷の結晶はと音を発し、極限まで圧縮されたが、一瞬のことであり、
"パキン"
結果、いくつもの音が合わさり、一つの音としてカズマに聞こえた。
その一連の魔術の行程をじっと見つめる瞳があった。
"きゅ? きゅきゅっ"
小龍のリュミエールである。小さな頭をソワソワと動かし、時には魔術の発動点に近づきすぎて、文字通り首を突っ込みすぎて、あわや巻き込まれそうになるも、危険を察知して素早く逃れる。何度もそれを繰り返す。
カズマはリュミエールが魔力を視認しているのではないかと思っている。
そしてそれは正解だった。
突如、リュミエールは一鳴きすると、
"パキン"
そこには、カズマと同様の氷の塊が顕現していた。
「すごい、リュミエール、君が作ったの?」
"きゅきゅっきゅ~♪"
褒めて、褒めてとカズマに頭を擦りつける。
リュミエールの頭をそっとなでながら、カズマは魔術の応用について、どうしたらいいのか考えていた。
「やはり、魔術の先生が必要だな。」
そっと溜息をついたが、リュミエールにはばれていて、どうしたの? とカズマの目を見つめるのであった。