精霊?
”そこにあると認知されるから、それは存在するのである。”
逆に、そこにあると認知されないなら、例えそこに存在してもその人にとっては存在しないものになってしまう。それが目の前で起きている事象ならば、とても納得できることである。
いつもと変わらない朝を迎えたはずである。その証拠に、いつもと同じ時間にアリスがカズマを起こしに来ており、いつもと同じように、カズマが服に袖を通すのを手伝っている。
いつもと同様の光景である。
しかし、昨日と違うといえば、宙にふわふわと漂う、白い小龍である。
ご機嫌そうに、"ぴゅう、ぴゅう"と鳴きながら、体をくねくねと動かし、作業を行うアリスの傍で、リュミエールがアリスにじゃれついている。特にアリスの長い三つ編みの髪はお気に入りのようで、仕切りに髪に嚙みつこうとしている。もし、本人が白の小龍を認知しているのならば決して女性の大切な髪に嚙みつこうとする横暴をとてもじゃないが、無視することはできないはずである。
逆に、見えている方は、いつアリスがいたずら好きな小龍に気づき、卒倒しないかとハラハラして注目してしまう。不自然なカズマの視線に気づいたアリスはどうかしましたか?と小首を傾げた。
自分が女性に不躾な視線で凝視していたことに気づき、動転してしまったカズマは誤魔化そうとしてつい言葉にしてしまった。
「例えば、白い蛇みたいな生き物がいるとして、それがアリスを狙っている。」
「はあ?」
「アリスは気づいていないけど、今もアリスに気づいて欲しくて、アリスの大切なところに嚙みつこうとしていたら、どう思う?」
「えっと~、それって…。」
突然、アリスは顔を真っ赤にさせると、カズマに聞こえないくらい小声でもごもごと呟いた。
その反応を見て、カズマはいかがわしい誤解をアリスに与えてしまったことに気づき、二人で顔を赤く染めた。
「いや、アリスさん? 蛇っていうのはあくまで、例えですから。」
じわりと瞳に涙をにじませ、高速でカズマの身支度を整えるとアリスは、小走りで部屋を出ていった。
”きゅい?”
突然のアリスの行動に驚いたのか、リュミエールは答えを求めるようにカズマを見つめた。
”決して、自分のせいだけではない。”
カズマは恨めしそうに、リュミエールを見つめるのであった。
「一番近い存在としては、精霊でしょう。」
カズマにとって、魔法に精通していそうな身近な存在は、オックスブリッジ魔術大学を卒業した母、ソフィアである。また、アリスが実の姉のように慕っており、カズマのどのような機微も報告するように言っている母に、アリスが報告していないはずもなく。
いっそのこと、自ら母に誤解を解くためにも、リュミエールについて相談しようと思った。
「精霊に祝福された者でしか、精霊を見ることができないはずよ。」
「エルフやドワーフに代表される精霊種であれば、精霊を認知することができると言われているけど、純粋な人間種では、数千に一人の確率でしか見ることができないと言われているわ。」
「精霊の祝福は、生まれながらに持っていることもあるし、後に精霊との縁があって祝福を受ける人もあるわ。カズマは元々、精霊の祝福を持っていたことになるわね。」
「精霊の祝福を受けると、どのような違いがあるの?」
「それは、祝福を授けた精霊の力にもよるけれど、大多数が怪我をしにくくなった。とか、魔力が増えたとか、筋力が僅かにアップしたとか、そんなところね。」
「カズマが精霊について学びたいなら、魔術大学時代の知り合いに連絡してみるけれど、どうしたい?」
カズマは折角の祝福があるなら、是非とも精霊について学びたいと思い、二つ返事でソフィアにお願いした。