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見果てぬ大地  作者: えっちぴーMAX
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船出

 ドラゴス村から3日程離れたところに、砂の海”エーリュシフォン”と呼ばれるここよりさらに砂の粒子が細かいところがあるそうだ。そこには砂の中で生活している生物が多数生息していて、その中には魚の型そっくりな生き物もいるそうだ。

 

村の戦士たちがいそいそと準備を整える。往復で6日、漁で4日、合計10日の旅になる。

普段、村から離れることが少ない、年齢の若い戦士たちを中心に今回は漁を行う。変わりにベテラン戦士は村を守るため、お留守番だ。もちろん、戦士長のドミニクが率いて行く。


「お母さん、私の銛”もり”どこにあるんだっけ?」


「あなた今頃になって準備しているの? お父さんに聞いてみて、お父さんのと一緒にしまっているはずよ。」


「わかったわ。」


ドミニクを探しに駆け出したカミューラの後をカズマは見失わないように急いで追いかける。


「二人とも、気を付けて帰ってくるのよ。」


「は~い。」


カミューラの家”テント”をでると、ドミニクを探しに物置小屋へ向かう。

出発は正午、ざっくりと太陽が真上に登った頃だ。


かくして、ドミニクは物置小屋で漁に必要な物を探していた。その傍らには幾つもの銛やもこもこした大きな岩程の大きさの網が置かれていた。


「この荷物はどうするんですか?」


「ああ、そうだな。カズマは見たことがなかったな。実は村の外に船があってな、それで砂の海”エーリュシフォン”まで行って漁をするんだよ。」


「本当ですか?それはすごいですね。」


「ただ、船を動かすのに大量の魔力を使うからな。カズマにも頑張ってもらうぞ。」


「はい、わかりました。」


なんとなく、そうであろうと思っていたところだったので、一体どれくらいの魔力を消費するのだろうとカズマは少し心配になってきた。


しかし、船なんかこの村にあったのだろうか?

カズマは小首を傾げるのであった。


村の入り口を出て戦士たちが向かったのは周囲に何もない、砂漠の荒野であった。視界の先にはただ、いくつもの砂丘が広がっていた。


「よ~し、みんなこの辺だろう。」


ドミニクは担いできた銛やら、食糧やらの大量の荷物をその場に降ろすと、副戦士長のケルニスに指示をだした。


「ケルニス、砂をどけてくれ。」


「はいよ、ボス。」


「こい、ペネルロゴス。」


空高く浮かんでいる曇が円状に押し広げられ、中心にぽっかりと穴が開きそこから下降気流が降りてきて砂丘に旋風”つむじかぜ”が舞い降りた。


人族の女性のような顔に、透き通る透明な女性の体、両手は柔らかそうな羽毛の翼、へそから下の下半身は無く、その代わりに旋風が絶えず舞っていた。


ペネルロゴスは主人の前で一礼して微笑むと、砂丘の上に降り立ち、グルグルと回転させ風を起こして、砂を周囲にまき散らした。

やがて、砂の丘から木製の船が顔を出した。

全部で6隻の船、どれも同型のマストが2本ついていて、全長60メートル程の中型ヨットのような形をしていた。


メインマストを降ろした後、ペネルロゴスの力を借りて、ゆっくり木製の船は船出をする。

帆をパンパンに膨らませて、ゆっくりと砂を切り、進んでゆく船、船首には聖炎龍王”ファブニール”をかたどった木彫りの船首像が備えつけられていた。


「本当に進んでいる。」


時折、船は砂丘に乗り上げたり、下ったりして遊園地のアトラクションのように揺れ動く。

カズマはその感覚を楽しむ余裕があったが、カミューラはさっそく船酔いに悩まされていた。


「はい、カミュの分、食べられる?」


船は木製でできており、火気は厳禁。夕食は竜の干し肉と、プラムのドライフルーツだ。


「うう~ん、だめかも…。」


上甲板には砂に埋もれていたため、たくさんの砂が残っていて清掃したが、入り口のドアは防水を考慮されており、しっかりと砂の侵入を防いでいた。もちろん、この船は水の上でも走るように設計されているそうだ。


船の船室は舷窓がなく真っ暗であったが、発光石が備えつけられており、ある程度魔力を込めておけば半日は光続ける。


カミューラは船室に掛けられたハンモックの上で寝ていた。


「甲板にでてごらん、星がきれいだよ。」


「うう~ん、やっぱり寝ておく。」


「わかったよ。何かあったら呼んでね。」


「わかった。」


頭まで毛布にくるまり、ハンモックと相まって、蝶の蛹”さなぎ”のように見えるカミューラ苦笑しながら、カズマは甲板へ向かった。


船尾側の一番高い位置に舵輪がついており、そこでドベルトが船を動かしていた。約3時間を目安に輪番制で交代し、船を動かす。砂漠の夜はやや肌寒くなるが、上着が必要なほど寒くないのが救いだ。


砂漠には大きな岩々が砂の奥に隠れているかもしれなく、魔獣も出現するので油断はできない。

船の灯りは無くても星空と地球より何倍も大きく見える月があるので視界は十分にきく。


ドベルトは周囲に目を光らせながらも、手持ち無沙汰に懐からスキットル”携帯用酒瓶”を取り出すと、ちびちびと舐めるように酒を飲んだ。


「カミュの調子はどうだった?」


「相変わらずですね。まだ、しんどいようです。」


「そうか、すまないが、たまに様子を見に行ってくれ。」


「わかりました。」


「実は、あいつは船に乗るのは始めてでね。漁に出ることをとても楽しみにしていたんだ。」


「そうですね、昨日もなかなか興奮して寝付けなかったみたいで、余計にしんどいのかも。」


「そうだな。俺も最初に船に乗った時は、船酔いに散々悩まされたものだった。年に数回しか漁に出ないから、また忘れた頃に漁にでて、また船酔いになる。そしてそのたびに思うんだ。もう絶対に船には乗らないんだって…。それを繰り返しているうちにいつの間にか、船酔いもしなくなっちまった。」


ドベルトはそう言うとまたゴクリと酒を飲んだ。


「おや、酒を飲んでいるなら、俺にも混ぜてくれないか?」


船室から眠気まなこで出てきたのは、ゼノスであった。

普段、戦士たちの訓練で顔を合わすことが多いが、カズマは村長の家に泊まっているため、以前よりも出会う機会が少なくなっていた。


ドベルトは舵輪を持ちながら、片方の手でゼノスにスキットルを渡す。


ゼノスは蓋が開いたままのスキットルを、仰ぐ”あおぐ”と、僅かに頬に垂れた酒を手の甲で拭った。


「なかなか上等な火酒”スピリット”じゃないか?」

一気に酔いが上がってきたのか、ゼノスは顔を赤くした。


「ドワーフの町、スピットベルグからの直輸入だからな。酒精が強いのは折り紙つきだぜ。」

それを聞いて、ドベルトはにやりと笑う。



「なかなか、将来有望な坊主を連れてきたじゃないか。」


この場に本人がいるのに、褒められてカズマは居心地が悪そうに身をよじった。


「ドラゴス族は…。いや、族長の血に連なる者は、この地に縛られている。精霊の加護の代償だ。

だから俺もドラゴス村から約10日の距離までしか離れることができない。」


突然に話し出したドベルトの横顔には、深い傷跡が刻まれていた。


「俺には、俺たちには聖炎龍王”ファフナー“を討伐することができなかった。奴には深い傷を負わせ、眠りにつかせることができたが、殺すことはできなかった。それも、ゼノスの恋人であり、俺の妹だったエルルを犠牲にしても。」


「カズマ、俺は元々、村の外の人間でね。幼い頃にドラゴス村に移住してきたんだよ。この地はとても魔力が強く、精霊持ちがたくさんいる。精霊を制御する方法を学ぶために、家族で移り住んだんだ。」


「昔、精霊の生まれる話しをしたのを覚えているかい? 異次元の上位存在がこの世界にやってくる際に一方は肉体のない精霊に、もう片方は肉体のある魔獣になると…。聖炎龍王は実在する。善の精霊がファブニールで、悪の魔獣がファフナーなんだ。」



「ファフナーを討伐すること、それがドラゴスの血族に課せられた使命なんだよ。だから、カズマにも手伝って欲しい。」


そう言いながら、ドベルトはスキットルを懐にしまった。


「それに、その経験はカズマの役にもたつはずだ。いるのだろう君にも、倒すべき相手”魔獣”が…。」


何で今まで思いをつかなかったのだろうか、父ブラムが遠征に行って仕留められなかった龍、それがリュミエールの半身であることに。


その日、カズマの意識が闇に包まれたのは、明け方になった頃だった。





















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