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見果てぬ大地  作者: えっちぴーMAX
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勝利の衝動

 広範囲に広がる赤い炎、突風のような風圧に包まれるドラゴス村の戦士たち、マントを被ったままの幼い二人をも飲み込んだまま、すべてを灰燼”かいじん”に帰すと思われたその現象は、その効果を発揮する前に空に顕現した巨大な龍の腹の中にすべて吸い取られた。

理不尽なまでの圧倒的な現象への干渉力、これを奇跡と呼ばずになんと語ろう…。

そして、これだけの奇跡を起こすことができる存在であれば、神と呼ばずになんと説明しようか…。


青く発光する龍、その存在の格はまさに竜ではなく龍種であった。

魔獣を含め、生物の枠を超えた精霊種であり、その中でも最上位の存在である龍…。


「ファブニール様…。」


隣のマントから顔を覗かせたカミューラの瞳には、精霊であるファブニールの姿が写っていた。

カズマは目を大きく見開いた。

カミューラの横顔に見たその瞳は、まるで英雄”ヒーロー”を見るようにきらきらと輝いていた。


絶対的な安心感、ドラゴスの戦士たちはもちろん、ファブニールの姿は見えていなかった。しかしなんと心地よいものか…。この硫黄の立ち込める悪臭と、噴煙で覆われた薄暗い空の下で、彼らは確かに自らの信じる神を感じていた。


まるで、物語の挿絵を見ているようであった。

悪い竜に立ち向かう伝説の戦士たち、そこに現れた、神の姿…。


”これがこの世界”


カズマが生きる世界なのだと…。


神気とも呼べばいいのだろうか、その圧倒的なまでの存在は、眩い気”オーラ”を発すると、やがて徐々にその気配を弱めていき、やがて視界に溶け込んでいくように周囲の景色と一体となっていった。



先の物語は現実で、圧倒的されていたカズマの認識から離れ、気付いた時には状況はすでに進んでいた。



戦士長ドベルトは、槍から愛用の大剣に持ち替えていた。

禍々しい上位魔獣の素材を使い、さらにドワーフによって錬成された魔剣、まるで素材の素になった魔獣の怨念がその剣に乗り移っているようであった。


自身の身長程の長さはあるその刀身を、軽々と片手で振り回しながらドベルトは果敢にルチルに切りかかる。その剣戟を防ごうと、ルチルは鋭いかぎ爪を持つ両足をドベルトに向けて放っていた。


剣に巡らせた魔力とかぎ爪に宿る魔力が互いに干渉し、衝突の反発力を何倍にも膨れ上げる。

ドラゴス戦士の肉体強化魔力により、上級火竜の力にも拮抗する。


何度目かの激しい打ち合いの後、徐々にドベルトの剣速の速さが遅くなり、逆にルチルの攻撃速度は素早さを増していった。

ついにルチルのかぎ爪がドベルトを捉えるかと思われた瞬間、ドベルトは大剣を手放すと、両の手でルチルのかぎ爪を掴んだのだ。


思わぬ反撃に急いで、捕まれた爪を離そうと翼を羽ばたかせるルチル、しかしドベルトは唸り声を上げながらも離さない。四肢に魔力を込め、必死の形相で自らの数十倍もあろうその巨体を地面に叩き付けた。

その力は凄まじく、周囲の地面を割り、それだけにとどまらず、陥没させた。


ルチルの両翼は、突風を受けて裏返しになった傘のようにひしゃげており、硬い皮から骨が幾つも突き破っていた。

凄まじい逆転劇。戦いの趨勢”すうせい”は決まっていた。


「うぉーーっ!」


それは歓喜の声か、勝利の雄叫"おたけび”か…。


その声はドベルトに続き、ドラゴス戦士たちの歓声に変わった。


「うぉーーっ!」


カズマはいつの間にかマントを脱ぎ捨て、自らも大声で叫んでいた。

横を見ると、カミューラも一緒になって叫んでいた。


視線と視線がぶつかり合い、自然と二人笑顔になっていた。


身体から湧き上がる言葉で言い表せない衝動を声に乗せて…。


「うぉーーっ!」


硫黄の立ち込める悪臭と、噴煙で覆われた薄暗い空の下で、ここから見下ろす、山々の果てまでこの歓声はどこまでも届きそうであった。




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